第5話 彼女の策略 (1)

 3時間目の授業は教室移動。

 『情報』の授業のため、PCパソコンが置いて有る教室で授業が行われる。又、この時間の休憩は他の時間と比べて少し長い。

 クラスメイト達が移動を始める中、日生はジッと席に座っている。


『2時間目終わったら、少し付き合って…』と言っていたけど、此所で話をするのかな?


(まあ、取り敢えず日生に聞いてみるか?)


 俺はそう考え、日生の席に近付いて話し掛ける。


「日生ちゃん。話してって、何かな?」


 しかし、日生はこちらに顔を向けずに只、うつむいている。


「日生ちゃん!」


 俺は無視されているのかと思い、少し強めの語気で言ってしまう。


「もう、人居なくなった…?」


 日生はゆっくりと顔を上げながら言う。


「男子は殆ど行ったけど、女子はまだ数人いる…」


「そう……」


 しばらく日生はただ座っていたが、彼女は急に席を立ち上がり、無言のまま教室を出て行く。日生は俺に何も言わずに出て行く?

『私に付いてこい!』の意味と捉えて良いのだろうか…?


 呆然と日生の後を付いて行くと校舎から中庭に出る。

 中庭と行っても本当の中庭で有り、校舎で両側を囲まれているため間隔も狭く、また日当たりも良くない。


 ベンチ等の腰掛けも無いので、其処でお昼を食べたり、休憩する人もなく、学校の孤島化していた。

 しかし、誰かの目には触れにくい場所なので、俺と日生は放課後、良く此所で雑談をする所でも有る。


 日生は中庭の真ん中付近で立ち止まり、やっとこちらに振り向く。

 そして、日生は俺を見つめながらゆっくりと喋り出す。


「良輔ごめんね…」


「!」


 日生の最初の一言は、いきなりの謝罪だった!


「えっ、急にどうしたの…?」


 今までの事の謝罪かと感じたが、直感で『何か違う!』と感じたためワザととぼける。


「……」


 そうすると日生は黙ってしまった!?

 彼女は何時も返答に困ると黙ってしまう。SNSで日生と会話をしている時もそうだ。

 お互い、何も言わずに時間ばかりが過ぎていく……


 いくら休憩時間が長いとは言え、このままでは次の授業は遅刻になってしまう。ここは一旦仕切り直し、お昼に来る真央と3人で話すべきか?


「もう、授業始まるし、そろそろ行かない?」


 場を仕切り直すため、俺はわざと話題を変え、この話を昼休みの時に持って行こうと考える。

 その方が時間もたっぷり有るし真央もいる。それにもう休憩時間が殆ど無い。移動するだけでもギリギリだ。


「良輔はそれで良いの?」


 日生は呟くように喋る……


「えっ!?」


『良く無いには決まってはいるが、どうしろと言うんだ!』と心で思っている内に日生は喋り出す。


「わたし、非道い事した…」


「折角告白してくれたのに…それを振って、また親友の関係に戻って…私、非道い女だね」


「そんな事無いよ!」

「気にしてないよ日生ちゃん!!」


「…ありがとう」

「でも、やっぱり良輔とは付き合えないよ……。それに親友関係も…」


「!!」


 天国から地獄とはこの事だったのか!?

 昨夜の浮かれた気分から、再び振られた悪夢を思い出す……何で!?


「ごめんなさい…」


『キーン、コーン、カーン、コーン♪』


 その言葉と同時に始業を告げるチャイムが鳴る。

 休憩時間と短い過ぎる恋が再び終わった……。日生は言い終わると、俺の意思を確認せずに去ろうとする。俺はそれと同時に日生の腕を掴む!


「待って!」


「……」


 直ぐに日生は立ち止まり、こちらを見る。

 彼女のクリッとした大きな目を見つめると、日生の目が潤んでいるのが分ってしまう!


(泣いている……。日生が泣いている…)

(何で…、泣きたいのはこっちなのに…)


「ごめん…」


 泣いている日生を見て、俺は思わず謝ってしまう。優しいという馬鹿かと言うか……


「大丈夫…」


 日生は涙を服のそでぬぐい、ゆっくりと話し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る