第53話 テストコース

リカルドの主張は、的外れなもので

僕ら、研究者チームは理解に苦しんだ。


燃料+空気=>混合気=>爆発=>排気。


爆発エネルギー=>クランク=>回転力変換


回転力+モータアシストトルク=>駆動



この、結果の駆動力が

シミュレーションと、実物エンジンの誤差が大きいので


誤差を空気モデル・パラメータで誤魔化して似せる、と言う・・・・。




そうではなく、部分・部分で誤差を減らすのだと言っても

面倒がって行わない。



MILS、環境変数の物理的妥当性が無ければ

誤差が減るわけはない。



好きで研究をしていれば、それは楽しくて仕方ない作業だから

リカルドの連中は、研究者と言うよりはメカ系技術者なのだろう。


「それなら、全部をこちらに任せ、口を出さないでほしい」と、僕が言うと

不満顔。



エンジン・コンストラクターはこっちである。



リカルドのひとりが、携帯電話でどこかに掛けて、指示を仰いでいる。




バラバラバラ・・・と、ヘリコプターの音がする。



なるほど・・・・仮に、ここに居なくても

ヘリでどこからか飛んできて、何れかに去ることも出来る。






ふと、ヘリの音が止むと・・・。


リカルドのひとりの、話し声が

建物のどこかに反響しているような・・・そういう響きが感じられた。




この建物のどこかに、電話の相手がいるのだろうか?



そういえば・・・・内線8-21-4219と言う

不吉な番号は、所在不明であった。




噂では、その部屋は

事故死したドライバーの一時的霊安室、だとか


スパイを拷問し、死んだものの行き先・・・だとか。


実際、この研究所には

ストレッチ・ワゴンのエスティマ霊柩車があり

時折、隣接する火葬場に出入りする事がある。




僕は、その辺りを空想しながら、お座なりに打ち合わせを過ごした。


F1エンジンの加速性能を向上するために、モータ|ジェネレータを

クラッチで断続するべきだ、と言う僕の主張は無視されたままだったから、もあるが


この建物のどこかにあるのだろうか、その・・・・4219の部屋は。


そのことが気になっていて。



この会議室の電話番号は、4322である。



会議が物別れに終わり、僕は部屋を出て

ちょっと、3階に上がってみた。


同じような部屋が連なっている。



あまり不審な動きをすると、警備にマークされるので

すぐに2階に戻る。


真知子は、ふわ、と微笑み「なにしてるの?」



柔らかい表情をするようになったな、と

僕は思った。



階段を下り、1階に行った。


長い廊下があり、左右に小部屋が幾つかあるが・・・・。

その奥に、なんとなく洞窟音がする空間があるような・・・そんな気がした。


プレハブ小屋のような、この建物に

地下通路?


かもしれない。



テストコースなら有り得るな、と思った。



真知子は、そんな僕を不思議そうに見て「何、考えてるの?」と・・・

親しげな言い方をした。


若い女の子らしいな、と思った。



わたしのものなのよ、と・・・言っているかのようだ。



そう言う事を言わない夏名は、いい子だなと思った。


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