第47話 ダウンヒルの悪魔

ここは丘の上だから、帰りはダウンヒルになる。

夜なので、車の往来も少ない、田園地帯を通る道。

県道である。

愛鷹山、と言う山と富士山の間を通る道だが


片側1車線の道だ。


以前は車線のない狭い裏道だったが、拡幅された。

だが、旧区間は狭く30km/h制限。


ここを、のんびり走っていると、車間を詰める、大きな箱型が良く来る。


抜いていけばいいのだが、それほどの能力もないのだろう。



よく、ここの道で餌食にした。




市街地に降りるあたり、東名高速をくぐるあたりに

2箇所ほど急坂がある。



そのコーナーで。である。



その日は、黒いホンダ・エリシオンだった。


研究所員なら、そんなことはしない。

自動車会社は、事故には敏感で

事故を起こすと、仕事の時間内に安全集会をするくらいの徹底ぶりだ。



「・・・・おそらく、運送屋だな」



近隣にトラックターミナルがあり、自動車関係の運送をする連中もいて

概ね運転が荒く、強引だった。



・・・だからと言って、物理法則には抗えないのだが。



僕は、一つ目の下り、急坂を4速で降りた。


ちょっと加速。


速度、90。



景色が急に流れるが、クリッピング・ポイントは覚えている。




エリシオンは、付いてこれない。必死で傾きながら下ってきている。



「ざまーみやがれ」と、僕は


ひとつめの急カーブ。


ブレーキを一寸踏み、2速!

トゥ&ヒル。

舵角のついていた前輪がグリップ。テールスライド。

ステアリング、まっすぐ。

スロットルを踏む。



急に車間が詰まったので、エリシオンは慌ててアクセルを戻し、ブレーキ。

慣性が大きいので、大きくテールスライド。


後輪が、縁石に引っかかる。



大きな衝撃音。



転倒したようだが、見て居る暇はない。


前は市街地なので、人が渡る可能性もある。



減速しながら、二つ目のコーナー、東名高速のガードを潜った。









翌朝、出社すると・・・。


歩道橋のところで真知子が「おはようございます」


僕は「おはよ、真知りん」


真知子は、そんな風に呼ばれた事はないらしく

恥ずかしそう、嬉しそうに、にっこり。



勉強だけをしてきたんだろうなぁ。そんな感じの理系女子が、ここは多い。



スレていないので、高校生と言うより、中学生みたいだな、と思う。



真知子は「昨日、大きな事故があったんです、また。須山で」


僕は「へえ」と、知らぬ顔。「単独事故?」



真知子は頷き「うちの社員じゃなかったんですけど・・・スピード違反で

カーブを曲がりきれなくて」




僕は、ああ、あのエリシオンか、と。思う。



死ぬ事はないだろう。

でも、ああいう奴は死んだほうがいいと思った。




歩道橋を渡りながら「早いね、いつも」と、僕が言う。



駐車場にはいろんな車がある。


ポルシェ、BM、VW。ルノー、ホンダ、日産。


ケチな事を言わないのがこの会社で、世界のいろいろな車に乗る事も研究だ。と言う。


正しい。


まあ、ロータスもいたけど、新しいエクシージとか、エランとか。


7はさすがに居なかった。


持っているという話も聞かない。



「7で来ないんですね」と、真知子。



僕は「あれで来たら、ひとだかりができちゃうし」



そうですね、と真知子は笑った。


北門が見えてきて。

IDカードを僕は出した。バッグの中から。




・・・この中の、どこかにいるのか?チャプマンは。


いるとも居ないとも、解らずに

当てもなく来たのだが。



でも、なんとなく・・・・エンジン研究の過程で


F1研究の連中、例の「リカルド」の奴らは

誰かの指示を仰いでいるように見えたし

技術的要求に、よく「軽量」と言う事を言う傾向があった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る