第44話 研究所

僕は思った。「もし・・・FIカーを研究してるとすれば・・・・。」


いつも、乙女峠を通る時。


箱根から見える、巨大な研究所。 


あそこにいるんだろうな・・・。


あの512に乗っていた男の家から、通うとしてもそう遠くはない。


それに・・・研究所なら。中は絶対に見えないし

警察だっておいそれとは入れない。


幾度も行った事は、あった。



そこで・・・・。


僕は、平静を装って。


その、研究所を持っている自動車メーカーの子会社が

派遣会社をしているので

そこに尋ねてみた。


「東富士研究所で仕事ありますか?」


と、電話してみたところ・・・。あっさりと「あります」。



経歴を言うと「すぐにでもOK」と言う・・・。


なんともあっさり潜入捜査が出来る事になってしまった。


F1レースカーを作っているとは、極秘だが・・・。高速道路の路肩だったり

その近所の路上にクルマを止めて聞いていると

明らかにレーシングエンジン、と言うサウンドが聞こえることもあった。


10気筒の音は独特だ。



「ただ・・・そこにチャプマンが居ると言う保証はないんだよな」


でもまあ、とりあえず行ってみよう。



このメーカーは、F1レースに関しては

不思議に進退を繰り返していた。


1回目は、まったく勝てずに撤退。


そして今回、2回目は

1度目よりはかなり戦績が良かった。


不思議だと、レース通からも言われていた。


噂では、F1で優勝した時に

ミドエンジン・スーパーカーを発売すると言われていて

その為の研究も進んでいる。そういう話だった。


割と、ファミリーカーは売れるが

若者向け、ハイソ、スポーツはダメ。

そういうイメージがあるこの会社だったから、それを

払拭しようと別ブランドを立ち上げたり。


操縦性を高めたり。


ロータス社と資本提携をして、エンジニアを招聘したり。

そういう会社だった。



このことは、横田にも言っていなかった。

別に、いいかと思ったのだった。



研究所は、深い森の中にあり・・・・

テストコースが複数存在し。

研究棟が20くらいある。

ひとつの街、と言ってもいい。


何しろ、所内にバスが走っているのだ。


そこに、潜入する・・と言うか、仕事も兼ねてそうする事にした。


研究所は深い森の中。外からは見えず

所内に消防、救急、警備もある。

なぜか、霊柩車もあり、ストレッチのエスティマがあり・・・

時折、走る事もある。


テストコースで火災があったりするのは日常的で


7階から見ていると、試作車や

ポルシェ、フェラーリ等が

高速周回路を全開で吹っ飛んでいく姿が見える。

音も聞こえる。



時折サイレンが響き、所内の消防車が走る。


極秘の研究なので、警察すら入れない。



「ここは・・・・誰かを匿うには絶好だ」と。僕は思った。


食堂は所内に多数あり、朝昼晩と、深夜食も取れる。

風呂もある。


眠るところは、研究棟に宿泊室があるし

診療所にもある。



どこかに居ないだろうか?あの、チャプマンそっくりの老人が。

僕はそう思った。



512の男の家に、幾度か行ってみたが

人が住んでいる気配は無かったから・・・。



「もし、通っているのではないなら、ここに来るだろう」


だろう、勘だけだった。


ホンダの栃木や、日産の厚木も考えられたが・・・。

ホンダは、仕事の誘いもあったけれど

どことなく「ホンダ独自」を主張する雰囲気が馴染めなかったし

日産は、厚木の奥地に先進研究所があるが

そこも、仕事の依頼で行ったところ

F1カーを作る施設ではなかった。


箱根の近辺から通っていたなら、ここだろう。

そんなふうに、あてずっぽうで僕は、そこに通った。

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