第43話 rain


翌朝は、雨だった。

静かなこの街には似合いの雨..

家の前の坂道に、雨は優しくさらさらと降りそそぐ。

あの時も、今も、昔もずっと...



僕は、雨のせいかひんやりと冷えている部屋にひとり

外を見ていた。

出窓の向こう、街の家並みは白く霞んでどこか幻想的だ。

それも、あの頃と同じ...



いつからこうなってしまったのだろう、とか思ったりもするが

永遠なんてのもまた幻想なのだから、とも思う。


こんな風にネガティヴなのは

やっぱり雨のせいだろう。


ベッドから抜け出すと、椅子に掛けてあったリーバイス502XXを穿き

僕は部屋を出て、薄暗い廊下に人の気配が無い事を

奇妙に快く感じながら半地下のガレージへのドアを開く。

7は昨夜の格好のまま、ガレージの奥へ頭から突っ込んである。

アルミ・ボンネットにそっと触れるとまだ微かに暖かく

Ford711Mユニットの体温を感じさせた。


トノ・カヴァが開いたままだったのでファスナを閉じ

ボディ・カヴァを掛けておく。




雨の日のオープンカーほど悲惨なものはない。

雨月に輝くJaguar-E、であったとしてもそれは同様だ。



そのことも、僕を憂鬱にさせている理由のひとつだった。


こんな日に、7を外に出すのは忍びない。

第一、無事に戻ってこれるかどうかも判らない....



しかし...



高い位置にある明りとり窓の格子を、容赦なく雨音が叩いている。

その激しいビートの奔流は、どこかしら往時のブラス・ロックのようだ。


そんな風に言うとまた横田にromantistだ、なんて笑われるかな...



僕はふと、横田の丸い顔を思い出し、なぜだか心和んだ。



視線を下ろす。


ガレージの隅の、シルヴァー・ターポリンに包まれた物体に気づく。




それは、いつでもそこにあって、もう何の役目をも果たしていない

ただのモニュメントのようだった。



その日の僕は、すこし気持ちがDownしていたせいか...



その、ボディ・カバーをめくって見た。




嫌な気持ちになるから、と閉じて置いた想い出。

不思議なことに、真紅のボディを見ても何も感じなかったのは

やはりその時の僕が、Downしていたからだと思う。



ボディカバーを剥いでみると、少し汚れたままのボディは

まったくあの頃のままで、そのことに懐かしさすら感じていた僕だったが

どこか、イメージ・フィールドに映る状況が現実でないような、

そんな奇妙な感覚に囚われていた。



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