第39話 departure in darkness



...なに?



...名誉を取り戻すため、とか。





.....そんな、スパイ小説みたいな^^;

僕は笑った。



横田は静かに....


...なにしろ一度死んだ事にして逃亡するなんてのは

尋常じゃあないな。

第一、イギリスの警察だって検死するだろう。被告人死亡では。

それに、死んだ男がどうやって出入国審査をパスする?




....そうだね。

僕は考える。



....でも、いくらイギリス人がいい加減、ってもそんなに簡単に騙せるかなぁ。

それと、僕らを襲った連中、あれ、警察の人間みたいだったけど...。




横田は、すこし沈黙し、そして..


...うむ。警察とはいってもな、シュウ。内部ではいろいろな組織があるんだ。

世間には言えないような事情を秘密のまま処理しようという団体もある。




...それで?



...そいつらの中には秘密任務を利用して、ちょっと余計な事をする奴だっている。




...外務省の役人が機密費流用するみたいに?




...まあ、そんなのもあるな。イギリスの警察にもルートはあるだろうな。多分。

秘密任務だから、何をしているか分からないからな。外からは。

そいつらが、検死書類を誤魔化して国外逃亡させたかもな。



...じゃあ、あの事故で死んだ512の男は...




....それは事故だったとしても、512の奴とおまえが仲間だ

と思われたのかもな。

もしそうだとすると、512の奴は何か情報を持っていたのかも知れん。

そいつの家にチャプマンが居たんなら、そういう可能性もあるな。




...うん...。


僕は、少し言葉に詰まった。

なんだか大きな奔流のエネルギーに圧倒されているような気分だった。


すると、横田は..



....そうだな。帰りにまた寄れよ。

普通の声に戻って。




...うん。それじゃ。

僕はテレフォン・ラインをクローズした。



それから僕は、夜の高速を飛ばして横田の家へと向かった。

もうすこし肌寒いくらいの季節だから、オープン・ボディには丁度いい。

バルク・ヘッドがアルミ板一枚だから、意外と"7"のコクピットは暑いのだ。

もともと英国は寒いからこれでも良いのだろう。日本は彼の国より

遙かに暑いから、秋冬は最適な気温に思える...


横田の家に着いたのはまだ宵の口だった。

秋口らしく星空が綺麗で、月灯りが眩しい。




「ふーむ....。」


横田は髭面で頷く。

右手で顎のあたりの髭をこね回している。



僕はちょっと口火を切るように。

「だとするとさ、その512の男が追われてた理由、ってのは..。」




横田は返す。

「わからん。これだけじゃな。でも、スピード違反で追いかけて、不慮の事故、

という可能性もあるしな。だが偶然ではなかった、とすると

覆面パトの奴は、512の男を追っていて、別件で、例えば危険行為で

検挙して身柄を確保したかった、とも考えられるな。

その、おまえの友達ってのも拉致されて、って事から考えると。」



「そうだね。僕のところにも変な奴がきたし。」


横田は更に、

「だとすると、その警察らしい奴等はなにかの事件の手がかりを追っていた、んだろう。

512の男がチャプマンを匿っていた、というあたりから考えると。」



僕はちょっとフクザツだな、と思いながら...

「....そう。じゃ、チャプマンが本物だとするとさ、どうして警察は捕まえないの?

あそこにいるって事くらい知ってるだろうし。」




沈黙。横田は少し考え、そして..

「わからん。わからんが、こうも考えられないか?チャプマンは何かの秘密を知っていて、

それをネタに取引をした。

自分が国外に逃れ、自由の身になるために。

そして、南アに逃れたが、そこでジャーナリストたちに見つかってしまう。

またも国外に逃亡を要求し、今度は日本に来た...。」



「それで?。」



「うむ。そこで例の512の男の世話になる。警察の一部は事実を知っていて隠蔽している。

たぶん、かなりの大物がチャプマンと取引をしていて、警察官僚を抱き込んでいるんだろう。

しかし、警察組織ってのは前にも言ったように複雑だ。

相互に競い合っているような部署もある。それで、別の部署からそれを告発しようとした。

そいつらが、ネタを探ろうとして512の男を追った....。」

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