第38話 Round-9

携帯電話から、横田の低い声が流れてくる。


....横田だ。



僕は、はやる気持ちを抑えながら、でも少し声はうわずっていた。


...あ、僕だけど...あのさ....

事の次第を話す。チャプマンにそっくりの老人をみた、と。

その老人は"7"に愛おしげに触れていて...



横田は返す。

ちょっと優しい声で。


..見間違えじゃないのか?



僕はすこし尖って...


....そんなことないって。カーグラの記事に載ってたんだぜ。




横田はすこしマジ声で、


...ああ、その話なら。

死んだ筈のチャプマンが、南アに居た、って話だろ?




僕はソク、返す。



...うん。もともとロータスのディーラーで、ケータラムのパーツを作ってた会社が

その頃新設計の"7"レプリカを出して、結構売れたよね。



横田はつぶやく。



....うむ。で、そのチャプマンに似た男ってのと、どこで会った?




僕は口籠もる。

だって、あの事件に関係した場所だから。




黙っている僕に、横田は静かに語る。



...どうした?言いづらい事か..じゃあ言ってやろうか。

例の事件に関係してるんだろう。



僕は、どっきりした。でも.



....うん。あの、512の男の家を探して訪ねたら、そこに居たんだ。




素直に話した。横田はどこか、兄貴みたいな雰囲気で

嘘をつくと、死んだ兄貴に嘘ついているような気がして嫌だったからだ。





横田は、少し投げ出すような口調で。


...そうか。




僕は慌てて...



..ごめん。




横田はすぐに返答した。



..いや、その事じゃなくて、すこし考えていたんだ。

この前の事件との関係を。




....関係?

僕は意外な言葉に驚いて、ちょっと声が大きくなった。けど、ここはビルの屋上だから

別に気にする事はない。




横田は更に続ける。



....例えば、そのチャプマンが本物だとしよう。だったら、なぜあの男が匿っていた?

そして、そんなところに一人で居たとは考えられないだろう?




....うん。




...たぶん、本物だとしたら南アから逃げて来たんだろうから

追っ手の眼を恐れて隠れているだろう。

でも、なぜ日本にいるのか?その理由を考えて見ると....



...見ると?




....イギリスでチャプマンが起こした事件ってのは大した事件じゃない。

ちょっとした訴訟騒ぎで、よくある事だ。

でも実刑判決が出て、チャプマンはその直後に死んだ。

しかし、死後も南アで目撃されていた。レース関係者の間で。

女房のヘイゼルも南アに居たしな、その頃。



....よく、わからないよ?




....ん、まあ聞けよ。それで、こうは考えられないか?

チャプマンの事件にはなにか仕掛けがある。

その事件の後、ロータスは負債を抱えて倒産。

「ロータス」のブランドが欲しい自動車メーカーが買収した、よな?



...うん。



もし、その事件が仕組まれた事だったとすると....。




...まさか...!




....いや、考えられない事じゃない。

その程度をやる事は朝飯前だからな。会社ってのは。


だとすると、例のブン屋が失踪したのも、512の男が死んだのも

説明がつくだろう?






....で、僕が変な男に追われたのも?




...それがもし関係してるとすれば、チャプマンが堕ちた罠を仕掛けた奴、ってのは

かなり巨大な組織だって事だな。



....自動車メーカーだ、って事?




...うむ。日本だったらトヨタあたりか。

事件の頃、ロータスと提携はしていたが。

最近、F1マシンを作ってるし

操縦性の良い車が沢山売れてるな。





...でも、そんな事するかな?



...まあ、車屋がやることじゃないな、これは。

企んだのは別のグループだろう。そいつが話を持ち込んだ。

ムネオハウスみたいにな。

ただ、こういう事は普通、闇に葬られるんだ。

どこの企業でもたいていやっているさ..

最近、告発が流行ってるだろう?

それだけ多いって事だな。秘密が。




....じゃあ...。




....うむ。もし、これが推理じゃないとすれば

チャプマンが日本にいるのは偶然じゃない。

血の気の多かった彼の事だから、おそらく.....


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