第27話 深夜とJazzと




微かな物音がした。

どうやら、僕は眠ってしまっていたらしい。


............。


音楽は、静かに流れていた。

これは...マリガンかな....。


見ると、横田は静かに。


「お、起きたか...。」微笑んでいる。




僕は、はっきりと状況を思いだした。

「ごめん...寝ちゃった。」




横田は、にんまりと笑い、

「いや、ほんの数分だ....。」


そういい、手元のグラスを傾ける.....。



しばらく僕らは音楽を聞きながら、茫洋と漂っていた。

LPが終わり、横田はトーン・アームを上げる。


次のレコードをジャケットから出す。

雨音の聞こえるような硝子窓。

窓越しの女。

ソフト・フォーカスの写真。


...エロール・ガーナー、かな。


レコードをターンテーブルに置く。

センター・スピンドルに触れると、レコードは回転しながら

ターン・テーブルに軟着陸する。

トーン・アームを静かに下ろすと

SP盤のようなノイズを伴い、潤いのあるピアノ。

イントロのフレーズ。

saxで吹きなれた。


僕は、地下のクラブの湿った空気の匂いを思い出していた。



横田は、真空管プリ・アンプの精密ヴォリュームを僅か、低めに。



「なあ、シュウさ....。」


背中でつぶやく。



「なに...?。」



「さっきの話しだけどな。」




「ああ、あのこと。」




「やつらは、もう襲ってこないだろう....。」




「.......どうして?」





「変な男に会った、っていってたな、警察で。」




「うん、僕の家に来た暴漢。そいつが、何故か警察にいて....。」




「そいつが『頭』だ。お前の友達を襲った連中の。」




「..........。」

僕は、なんだか分からなくなった。

どうして横田はそういうんだろう。



「おそらく奴等は、何らかの目的でその、

死んだ512の男を追っていたはずだ。

それで....」



「それで?。」

.



「一緒にいた人間をまず、疑った。

事故に見せかけて消そうとした、と。」




「そんな、まさか....。」




「いや、ありえない話じゃない。ちょっと前、日本でも

宗教団体絡みのカルトが、そんな事をやっていたしな。

対抗組織の大物を、事故とか火事に見せかけて殺したりな。」





....僕は、死んだ兄の事を思いだした。

兄も、確か...宗教にのめり込んで。

対抗組織が過激派だった...。

そして、高速で....。



「........。」

僕は、硬直してしまった。



「どうした?。」

横田は、僕の表情に気付き....。




「いや、なんでもない。」

僕は、普通であることに努めた。

横田は、兄のことを知らない。

話すつもりもなかったし。




「...で、おまえらが疑われた、と。『とんび』も出てるしな、あの辺は。」





「......それは分かったけど、なんで『もう襲ってこない』って思うの?。」

僕は、忘れかけてた言葉を。



.


「ちょっと、知ってるんだよ、その組織の事。」

丁度、レコードが終わって。

横田はB面にかけ変えた。


また、アンニュイなピアノが、JBLパラゴンから流れる。




「....で、この間話したブン屋も、まだ行方不明のままだ。」



「....じゃあ......。」




「ひょっとすると、その512の奴も、ブン屋も

何も知らなかったのかもしれない。

しかし.....。」




「......?」




「何かを知ってしまった、とすると....。」





「うむ、その512の男、かなり胡散臭いんだ。

そのブン屋に聞いたんだがな。

で、そのブン屋も音沙汰なし、だ。」




「....でも、あれは事故だった。」



「そうだが、現場にいた奴は一応疑うもんだ。

それに、刑事が家に来た、っていってたろ?」



「うん.....。」




「別の捜査でも、その男を追ってた、ってことだな。」



「........。」





「ま、妙な事には関わらん、というのが無難だろう

だいたい、この一件は危険すぎる。

犯人探しは、やつらに任しとけばいい。」



「そうだね。」




「さて、今日は泊まってけ、..もうじき朝、だがな。」

と、横田は言い、にんまりと笑った。

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