第26話 横田-特高
「おぅ......。」背中から太い声。
横田だ。
「あ、電話くれたんだね、なに?」
と、僕はいつものように。
「うむ....WE300を正規物に差しかえた。それで、
ちょっと聞いてみないか、と。
酒でも飲みながら。」
それもまた、いつものような夜の。
「そう!凄いねそれ、再生産ものじゃないでしょ?」
僕は、何故かちょっと気がはやってる。
「もちろんだ。」
いつものように冷静な声で、横田は答えた。
いつもの帽子がないと、なんか変だ。
「ねえ、ハーレーの帽子ないとさ、普通の人みたいだね。」
「なんだ、俺は普通の人だぞ。」
横田は、目で微笑みながら。
「どこが?.....。」
僕は、半分笑いながら。
「.............。」
横田は、声を出さずに笑い、僕を促し玄関ホールへ向かった。
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大音響で鳴っている筈なのにうるさくない不思議なサウンド。
フロント・ロード・ホーンの低音は、ロード領域では低歪み。
WE300Bが、電圧制御ディヴァイスらしく、事も無げに音を出す。
リング・ドライヴァ・ホーンから
テナー・サックスのむせび泣きが聞こえている...
「いいね、これ、とっても、本当のSAXみたいだ。」
「そうか?いやぁ、300Bの正規物、流石だよ。」
と、いつになく横田は言葉が多い。
好みの音が出た事に満足げだ。
「それでさ、話ってなに?。」
僕は、とうとつに話を投げてみた。
横田は、上機嫌だった顔をすこし曇らせ....
「うむ。この間の事件のことなんだが....。」
「あ、そうだ!聞いてみたいことあったんだ。」
僕は、さっきのS12の彼の言葉を思い出し...
「 『特高』ってなに?」
横田は、視線を反らし....
「確か、戦時中にあった統制組織の事だったか...。」
と、言葉を濁す。
僕は、彼の言葉に異を感じて、
「?...それでさ、こないだ話したうちのひとりが、事件の後、
変な連中に拉致されて、犯人のやつらが
『俺達は、特高だ』..って。」
一気に。
横田は、少し表情をこわばらせ....
「なあ、シュウ、この件にには関わらない方がいいって言ったな。」
僕は、彼の思いやる心を感じ、でも、それゆえに
若さというエネルギーが反発を覚え...
「でもさ、そういったって、僕もさっき変な男に襲われてさ、
警察いったら、そこの警察にその妙な男がいて....
なんなんだ、と、思ったら、どうやらそいつは警官の仲間らしくて。
で、監禁された彼も....
偶然にしちゃ、ちょっと妙だな、って思ったワケ。」
と、少し尖った声で早口に。
横田は、少し考え、
「お、そうだ。ちょっとつまみを持って来る。」
突然。
「ちょいと、音楽でも聴いてろな。」
真空管プリアンプのボリュームを上げ、防音ドアの向こうに消えた。
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横田は、台所の電話を取り、短縮でダイアル。
「....横田だ。」
「....いや、気が変わったんじゃない。
あんたは、何やってんだ?
治安維持が仕事じゃなかったのか?.....。」
強い語調で、横田は。
「...とぼけるなよ。俺の知りあいが『特高』に襲われたってよ。
あんたの手下だろう。なにやってんだ、一体?」
「ま、言えねえんだろうけどな、組織盲遂も程々にな。」
といい、横田は受話器をフックに落とした。
「............。」
怒り、冷めやらぬ、という表情。
無理に気分転換をするように、両手で頬を叩くと、
冷蔵庫の中から何かを取り出し、リスニング・ルームへ戻っていった。
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郊外の環状道路を、R31で走りながら。
携帯電話のスイッチを切り、革コートの男は少し、ため息をつく。
その度に革が発する擦過音を聞きながら。
.....まだ....今のところは。
と、独り言をつぶやきながら、シフトを2速へ落とす。
いかれかけているシンクロメッシュが、ギアノイズを発したが。
かまわずにシフト・ノブを叩き込み、回転のあがらないエンジンを
急きたてるようにフル・スロットルにした.....
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