第24話 270ps
危険をそうは思わない、ような。
攻撃的な瞬間。
振り返った時、自分がとても異常だった、と気付く。
どうしようもない、本能の叫び。
「そいつを、無理やり抑制するから....。」
ヘルメットの中でつぶやく。
生き物としてのヒトは、変化を好む存在なのだ。
思うがままに、原野を駆けまわっていた先祖たちには
こんな悩みはなかtったに違いない。
日々の食い物を得るために、攻撃性を発揮していたのだから。
それから、気の遠くなる程の時間が過ぎ、
ヒトは社会を作り、複雑なルールを決めた。
すべては「共存」のために。
だが、しかし。
それが、ヒトのもつ本質的な攻撃性に強くストレスを与える。
どこかにはけ口を求める。
娯楽に、sexに、嫌がらせ、いじめ。
すべて、歪んだ攻撃性が、行き場をうしなって暴発したものだ。
共存の為の機構が、ヒトの自滅を誘う。
皮肉なものだ....
さまざまの妄想が、脳裏を掛け巡る。
今夜は、眠れそうにない。
少し、軽くながそう、と。僕は深夜の環8を、
5000rpmに押さえて。
ヴァイブレーター・コールにしてあった携帯のことを思い出し、
道端にバイクを止め、バック・ポケットをまさぐる。
左にだしたウインカー、旧タイプの三角のウインカー・レンズの
カット・レンズがオレンジ色の光を放って、すこしまぶしい。
携帯の無機的なモノクローム液晶に、「着信あり。」
Function#24 で、番号を探る。
......横田。
ついさっき。の時刻。
ちょうど、僕が交差点で暴走族ごっこをしていた時刻だ。
...なんだろう。また、酒でも一緒に、ってのかな?
何の気なしに、着信履歴ファイルを開くと、見慣れない番号がそこに。
....誰?
アドレスに書き込んであれば、ネーム表示になるから.....
僕は返信した。
仕事の依頼か、とも思った。
コール。.....1回、2回、3回.....。
長く、コールが続く。
「はい。」
深夜にも、はっきりとした男の声。どうやら眠っていた訳ではないらしい。
どこかで聞き覚えのある、おちついたヴァリトーン。
...この声は?
「お電話頂いたようですが....、先程。」
と僕は、相手をまだ測れずに、一応、丁重に。
「デンワ?.....さあ..? あんた?... ! ああ 、あの時の" 7"の!。」
と、800MHZ の無機的なディジタル無線波は、いきなり有機的な雰囲気を連れてくる。
「おお、あれから大変だったんだよ、俺、変な奴等に捕まってさ。」
思い出した!
この声は、あのS12の、メカ・マニアの彼だ。
「大変だったって?無事だったんだ。失踪した、って刑事がいってたから、
気にしてたんだよ。」と、僕は無事を喜んだ。
「失踪?なんだ、それ?俺は、あれから高速でちょいと、boost圧上げすぎて、
ブローしちまってさ、なぁに、間にあわせだったもんだから、メタル・ガスケット入れなかった
のが間違えだった、はは^^;。」
と、彼は、メカ・マニアらしく、機械の話になると 「「「ジョウゼツ」」」 になる。
「大変だったんだ...。あ、夜遅くに悪かったね...。」
と、僕は返した。
「いやぁ、今、エンジンをスペアに載せ代えてたとこさ、今度は手抜きはなし。
しっかり腰下もやってあるから、絶対ブローなんざしないさ。
270psは軽いだろ、ははは。」
と、彼は明るく笑う。
「.....でも、変な連中って?。」
僕は、気になって、聞いてみる。
「ああ、高速でさ、ブローして路肩に止めてたら、一見警官みたいな
やつが、キャリアカーに載せてく、ってんで頼んだらさ、....ああ、只だってんで、
JAF呼ぶよりいいか、と思って。 そうしたら、変な廃病院みたいなところに
連れこまれて...んで、逃げてきちまった。
連中?ああ、偽警官みたいだ。
なんかエラそうなとこは、本物っぽいけどさ。
なんか....なんとかって言ってたな、自分たちのこと。
...ああ、『特高』とかって。」
....『特高』..!?
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