第23話 run about


下り切ったところのシグナルが赤いサインを発していることに気づく。


.... 停止は無理だ。

.... 回避は?

.... 方向は?

.... 成功の可能性は?


瞬間に、選択を迫られる。

City-runabout は、ある種GPレースより困難だ..


... このまま、いっちまえ!...


まさかの場合の用心に身構えたまま、2速にシフト・アップ。

ブレーキ・ペダルには足をのせたままに。

停止車のない交差点に入る。

さっきから、速度警告灯は赤いランプがついたままだ。


真一文字に交差点を抜けよう、とした.........


左方向から、障害物が接近してくる。

視界の中で壁のようにひろがって来た。



....おそらくは、11tトラックかなんかだろう......



僕は、ぐい、とリーン・アウトでフュエルタンクを右に押し、ハンドルにあて舵をする。

直進性のつよいRZVは、瞬間、フロント・タイアが滑り、軽く右に倒れ込もうとする。

アクセルを押えたまま、その力を路面に押しつけ、強引に方向を右に換えようとした。


キャブ・オーヴァーのトラックから、パッシング・ライトとヤンキー・ホーンの音が

怒涛と押し寄せて来た。

トラックのタイアスキールが、不吉なハーモニーとして死へのpreludeを奏でているようだ。


風圧。

音圧。

気配。


存在感を左半身に感じた。



が。



直後、RZVのリア・フェンダに感覚を残しながらも


彼岸から僕は戻れた、ようだった... . . 。



中央分離帯を避ける必要から、フル・ブレーキングし、左ターン。

その作業を機械的にこなしながら、妙に冷静な自分を不思議に思った。



...いつから、こんな...



エスカレートする攻撃性。

衝動を誘うcity。

そいつは、いつも破滅を狙ってる。


power.

violence.

speed.


ここじゃあ、タフな奴しか生き残れない。



僕は、ひと仕事終えたような気分で、スロットルを戻し、

3速にホールドしたまま、緩いカーヴをクリアした。




R31のフロント・グラス越しにこのゲームを眺めていた男は、

小さく舌打ちをしたまま、赤信号と、急停止でエンジンがストールした11tトラックを睨み、

手垢に塗れたホーン・ボタンを叩いた。


革のコートが擦れ、やはり死した動物の嘆きのようにちいさな音をたてた。






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