第21話 RZVvsR31
東横線のガードを斜めに、シケインのようにくぐると、直ぐに公園だ。
公園に入る、車止めのステンレス・パイプが鈍く光っている...
フル・ブレーキング! シフト・ダウン。スロットル・オン!
フロント・フォークを目一杯伸ばし、スタンディングで
車止めを斜めに擦り抜け、公園に入る。
運のいいことに、無人だ。
速度がありすぎたのか、ミシュランがグリップを超え、テイルスライドする。
が、カウンターで立て直す。
池の前をまっすぐに抜け、商店街の方の出口に抜けた。
金網の向こうで、公園の驢馬が不思議な物を見た、という表情で見ていた...。
舗装路に再び飛び出し、ちら、と振り返ると、R31の姿は公園の向こうにはなかった。
...?
とりあえず、奴をマカなくちゃ...。
と、商店街の路地を曲がって駅前の一方通行の方に出、まだ人いきれの残っている
駅前を駆け抜けた。
流石に、クルマじゃ無理だろ....。
私鉄沿線のごみごみした駅前通り。バイクでなら楽勝だが、あの図体のR31じゃ...
もう、あのRBのファン・ノイズも聞こえては来なかった。
..やれやれ...。
スロットルを緩めて、住宅街の裏通りを静かに抜けて、僕は警察署に向
かおう、と意図的に大通りを避けた。
警察は嫌いだが、とりあえず話しておけば身辺警備ぐらいはするだろ..
そう、楽観していた。
ぼおっと、赤いランプが軒先に光っている、下町の警察。
ざらついたコンクリートの感触を心に感じながら、
僕は、マシンを玄関に止めた。
「いつ来ても、ヤなとこだよな....。」
でも。
今日は?
薄汚れた玄関。
手垢に塗れた。硝子扉の、
ひとの温もりを僅かに感じる部分。
それ、以外は冷え切って、無機的だ。
ほとんど人気がないので、かえって不気味。
返事は、返ってこない無人のロビー。
微かに、ざわめきの聞こえる
方向へと、僕は歩いていった。
狭く、暗い廊下には、どことなく陰気な。
犯罪の匂い?とでもいうのか。
・
・
・
「そんな話、聞いてないな。」
初老に近い年齢の警官。
当直なのか、眠そうにけだるそうに。
「でも、確かに家に...。」
僕は、名刺をもってくりゃよかったな、と思った。
「だいたい、高速の事故は、管轄が違うんでね。」
「それで?妙な男に点けられた、と。
まあ、その話は一応伺っときますがね。
警察としては、被害がなけりゃ..。」
とりあえず、付近を警らさせましょう。
面倒臭そうに、そう答えた。
おそらくは形だけ。
そんな雰囲気が漂う。
おざなりな、まるで自動音声発生装置のような言葉。
「わかり..ました。」
こんな連中に期待するべきじゃなかった。
徒労感。
とでもいうのだろうか?
疲れが、どっと出てきたような気がして。
僕は、脚を引き摺るように出口へ向かった。
うす暗い廊下の向こうから、制服警官が歩いてくる。
中年の、いかにもそれらしい警官。
こちらを見るでもなく、でも確実に
「ちょっと、こちらへ.....。」
制服警官は、僕に手招きをした。
物腰柔らかく、しかし不気味な雰囲気を微笑みに浮かべ。
「なんですか?」
警戒しながらも、僕は従う。
逃げるのも妙だし。
「あなたのオートバイですか?あれ。」
警官は、汚れたガラス窓ごしに見える、僕のRZVを指差し。
「はい、そうですが。......。」
「先程、通報がありましてね、その...」
「なんですか?」
「暴走車両のナンバーと、あなたのオートバイの
ナンバーが似ているんですよ、」
「.........。」
......そうだ....。
さっき、あの男に追われた時....。
「あの......。」
「とにかく、お話うかがえますか?」
と、事務的な口調で。
職務にかこつけて楽しんでいる、という様子がありありと解る。
僕は、しかたなく警官の後について窓のない小部屋に入った。
その部屋には、すでに男がひとり。
革のコートを着た、黒眼鏡。
入り口近くに立っている.....。
「!」
こいつは........。
「おまわりさん、こいつが!僕を追いまわしたから.....。」
「追いまわした?そうか、では、暴走したのを認めるんだな?」
「ふつう、変な男が襲ってきたら、逃げるのはあたりまえだろ!」
コンクリートの、物の無い部屋に声はむなしく響く。
「まあ、いい。」
男は、しわがれた声で。
この声、どこかで聞いたことがるような気がする...ような。
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