第20話 # round-5
.......。案の定。ピストンが棚落ちしている。
ヘッド・ガスケットも吹き抜けているようだった。
やはり、ノンメタルでは無理なようだった。
エンジン下ろさなくちゃ無理だな....。
彼は、スペア・エンジンと、メタリックのヘッド・ガスケットに
交換する事を決意した。
しかし、既に深夜である。
そうそう仕事に穴を空けるわけにもいかない..ガレージの灯かりを落とし、
暗い中、ヘッド・ライトの反射鏡が訴えかけているかのように思えて
ならなかったが、シャッターを下ろした。
...まってろよ...すぐに直してやる。
今度は。S15なんかに負けないように仕上げてやるからな。
彼は、走り屋、エンジニアらしい自負を胸に、ガレージを後にした....。
ふと、軒下のRZに目がいった。
ブラック・グレイのRZ250R。
...ご多分にもれず、これも350ccに改造してある...
最近、走ってなかったな....。
ボディ・カヴァをはぐり、キーを入れる。
ニュートラル・ランプが明るく点灯し、バッテリーが健在であることを伝えた。
キックを軽く下ろすと、ハイ・パフォーマンスユニットらしからぬ
軽快なサウンドを立て、あっけなく始動。
不整爆発が脈動のように、レヴ・カウンターの針を上下させる..。
ブリッピングさせると、指針は弾かれるようにカウンターを駆け巡る。
調子は最高だ。紫の煙が、狭い軒下に漂い、朝靄のようだった....。
・
・
・
その頃、僕は...
あたりに漂うオート・ルーブの匂いに懐かしさを感じながら、
RZVの振動を楽しんでいた。
ガレージからヘルメットを持ってきた。
さ、ちょっと走ろうかな。
...と。
視界の隅になにかが横切ったような気がして、振り返ろうとすると
黒い皮コートの大男が立っていて、思わずどきりとした。
「何か..。」とたすねようとしたが、男は不気味に黙っていた。
不快な気分。
振り返り、スロープを昇ろうとした時
大男に不釣り合いな俊敏さで、男は僕を羽交締めにし、
ガレージ脇にひきずりこもうと企んだ
...反射的に腕払い、肘鉄!
奴の馬鹿力が抜けた隙に、僕はマシンに駆け寄り、飛び乗った。
クラッチを握り、シフトを踏み込みながらマシンを押し出す
自重でサイド・スタンドが払われ、
RZVは飛び跳ねるようにフロント・アップし、加速した...。
後ろを振り替える余裕もなく、住宅街を駆け抜けた。
「なんだよ...あいつは.....。」
久しぶりに感じるV4サウンドだったが、味わっている余裕は無い。
とにかく、逃げよう...。
そうだ、さっきの警官に知らせよう。
僕は環状7号に出ようとした...。
まもなく大通り、という路地から古ぼけたR31が飛び出してきた!
僕は、咄嗟にフル・ブレーキング。
...乗っていたのは、さっきの男だ。
それを確認すると、リア・ブレーキをロックさせ、腰を左に振った。
放物線を描き、ブレーキング・ターン。
ゴム臭さとブラック・マーク。
ブレーキを踏みながら1速に落とし、回転をあげてクラッチをつなぐ。
テイル・スライドしながら、RZVは方向を変え、
逆方向に猛然を加速を始める。
直ぐに路地を曲がり、裏の教会通りに向かう。
R31が、タイアをスキールさせてる音が聞こえた...。
しかし、R31は諦める様子は無く。
ファン・ノイズが追いかけてくる。6気筒のエンジン、回転の上がらぬそれを
目一杯急き立て、男は全開で。
...どうする、か。
僕は交差点を右折、細い路地に入って、公園の方へ。
少し、スロットルを緩めた。
追いついてきたR31は、執拗に追いたててくる。テイル・トゥ・ノーズ。
RB20Eの、悲鳴のようなノイズが間近に。
..よし。
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