第19話 OH

とりあえず、ガレージに収まった我がマシンを見、彼は安堵する。

エンジンのかからないマシンを下ろすのはそれなりに苦労したが、

熊の尽力もあり(熊と呼ばれる由縁である。)どうにか収まった。


傷ついたマシンを見ると、わが身のように痛みを感じる。


カーマニアというものの習性。


彼は、灯かりのついたガレージで途方に暮れていた。

熊が、彼にささやいた。「あれ...どうする?」

その大きな体には不釣り合いなほどに繊細な神経の持ち主の彼は

状況を考え。


「...そうだな、高速のパーキング裏あたりにおいときゃ、奴等持って帰るだろう。

どの道、まともな話じゃないんだから文句言って来れるはずないし。」


それはそうだ、逮捕、不法監禁、まともな人間のやることじゃない。

しかも、あ奴らは警察の名を騙っているのだから。

「じゃ、いこぜ。」

「おお、たのむわ。」

彼は、ガレージのシャッターを下ろすと、裏山、高速道路のある方向を目指し

キャリア・カーを運転していった....。

その夜。

早速、ボンネットを剥ぎ取り、彼はエンジンの修復に取り掛かった。

慣れた手つきで補機類を外して行き、シリンダ・ヘッド。カヴァを外した。

エンジンオイルは白濁しており、やはり水が混入していることを物語る。


.....。


カム・チェーン・テンショナを緩め、ヘッドボルトを緩めた。

多少は歪みが出ているに違いない。

カム・チェーンを外し、ワイアで固定しておく。

クランクケースに埋没させない為だ。

ヘッド・ナットを外し、静かにシリンダ・ヘッドを開放した...。

白熱電球の作業灯に、snap-onのクロム・メッキが反射し、輝いた。

彼は、ようやく落ち着いた気分になった。

奇妙な事だが、メカ・マニアという生物の生態である....。








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