第13話 Dead end



兄も、あの512の男のように高速道路で最期を遂げた。



死の数週間前、彼はふと、こんなことをいっていた。



「なあ、シュウ。出家したいな。」


「...?」


「どうしようもなくなったら、お前、どうする?」


「そうさな、僕なら高速で、ハンドルを切り損ねた振りして事故る、かな。

   自殺かどうかは、わからないんだし。」


「.......。」




そして、その後、似たような状況下で、兄は逝った。



死に至る病はこころにも存在する。

ヒトが考える生き物である以上、文化は支配的である。


そして、今、文化は男たちにとって壊滅的な状況だ。



雌と餓鬼どもに媚びる下らんTV!

爺ィどもがしたり顔して、偉そうに講釈たれる新聞!

ノータリンの阿呆相手の“J−POP”とやら!




全部、全部、ぶち壊せ!


できる限り、破壊しつづけろ!


逃げつづけるんだ! 力の限り!




死んでからじゃ、遅いんだ。


いつか、僕は涙に暮れていた。何故かは判らない。


兄の無念さに、共鳴していたの、かも知れなかった.....


さて、どうしたものか。

眠ろうとすればするほど、目が冴えてくる。



いろいろなことがありすぎたからか、

記憶がflushする感じで、眠りにつくことが出来ない。

今までの自分には全く無関係な感じだった、社会のこと、世の中のこと。

それらが、一気に実感を持ってめぐり来るように押し寄せてくるような感覚だ。

まるで、ドラッグのように。




仕方なく、僕はいつものように、冷蔵庫を開けた。

昨日と同じように。フリーザーの中で同じようにグラスが冷えている。

手で取り出そうとすると、掌が凍り付き、硝子の表面に張りつく。

はずそうとしても、なかなか取れず、皮膚の表面の一部を奪い去ろうとする。

まるでなにかの陰謀のように、しつこく思えた。そのままベッドサイドにもって行き、

冷えているビールを注ぐ、と、滑らかな泡クリーム状に表面を覆う。


これを、丁寧に保つことがビールそのもののを空気から守り、旨さを保つ秘訣なのだ

と何かで読んだことがある。やはり、どのような状況にも防御は必要なのだ、

という暗喩のようにこのときの僕は思えてならなかった。



すこし、感覚がダウンしていたのかもしれない。



グラスの金色の縁が、月明かりに反射して美しい光芒を。

クロス・ハッチ・フィルターの写真のようだった。

その情景を見るに、全く昨日と同じで時の経過が信じられなかった。



ぐい、と飲み干す。



喉越しを泡と共にほろ苦い感覚が透過してゆく。忘れ去りたい記憶なんかも、

こんな感じで流しされればいいのだけれど。

アルコホルの力を借りて、眠りを誘おうとする。が、今日はどうにも眠れない。

蒼白月が、いつのまにやら傾きを進めて、明日の訪れを予感させようとしている。


僕は、取り止めも無く、あれこれと回想を続けていた。


数年前の出来事、別れ、心、愛、そして死。其れやこれやがぐるぐると、めぐり始めると、



もう眠りに就くことはできない。さらに続く、もうとまらない。

高速道路、バトル、事故、逃走、行方不明、警察.....。



警察?



さっきの警官は、警視庁の刑事だった。何故、警視庁の刑事が?交通事故ならば、

神奈川県警察のはずだ。


なぜなのだろうという疑問を感しる。これはやはり、横田の言ったように関わらないほうが

良いものなのだろうか。新聞記者、S12とふたりの人間が行方知れずになり、

さらに胡散臭い男がひとり死んでいる。それに、報道管制が敷かれている。なにかある。

そんな感じがする。などととりとめもなく考えていた。ひとつのアイディアが、

神奈川県警察はどうしているのだろう。





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