第4話 出逢いは偶然に、隠し扉を開いたかの如く1


土曜日まであと五分、元気と洋平は電話で明日の打ち合わせをしていた。



「それでだ。メインの馬に乗るのは正午をまわってからだ」



「どうして正午なんですか? 普通、メインは最後じゃないんですか?」



「太陽がもっとも高い位置にある時、馬もオレたちも最高に輝いて見えるんだって」



「……確かメリーゴーランドって屋根がありませんでしたっけ? それに曇りだったら?」



「……最後だな。夜遅くに電話してごめんな。じゃあ明日な」



「楽しみにしています。失礼します」



電話でのやり取りを終えると、洋平は椅子から立ち上がり、玄関の照明のスイッチを入れてドアのカギを開けた。



そして、その場に立ったままスマートフォンで時間を確認した。



「……どうぞぉ~、お入りくださ~い」



洋平は日付けが変わったことを確認すると、玄関ドアに顔を近づけて、近所迷惑にならない程度の声の大きさで、扉の外に向かって言った。



すると、静かにドアノブが回りドアが開いた。



「居ても立ってもいられなくてよ」



「来ると思ってました」



元気が右手でピースサインを作りながら嬉しそうな顔をしてそう言うと、洋平は笑顔で先輩を招き入れた。



それから二人は、今日に備えてすぐに眠りについた。



日の出から数時間後、あれだけ楽しみにしていた元気と洋平だがどうしたことか、どちらも目覚まし時計のアラームをセットしていなかったため、セオリー通りに寝過ごしてしまった。



「……坂本さん起きてください!」



「……女神様、女神様……」



「坂本さん起きてください! 寝坊です!」



「女神様、メガミ――なに、寝坊だって」



洋平の呼びかけで元気は目を覚ますと、慌てて起きあがり、二人は慌てて身支度を整えた。



準備を終えて家を出ようとすると元気は忘れ物をしたらしく、一度キッチンへと行き再び戻って来た。



「これこれ。悪いな、一枚もらうぞ」



「どうぞどうぞ、もう十時前ですもね。ボクも軽く食べていこうかな。いちど部屋に戻りましょうか?」



「いや、このまま行く。吉沢も一枚持ってこいって」



「そうします。ちょっと待っていて下さいね」



洋平はそう言うと、靴を脱いで部屋の中へと戻り、元気に言われるがままに同じモノを取りに行って戻って来た。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る