練習
「さぁ、それでは優勝者の発表です。」
やるだけのことは、やった。あとは運を天に任せるのみ、だ。
「第27回全国アマチュアダンスフェスティバル。輝かしい栄光はいったい誰の手に!」
俺だ。今度こそ、俺だ。
俺がいただくのさ、その栄光は・・・・
「発表します。第27回全国アマチュアフェスティバル優勝者は・・・・」
俺だ、俺なんだ、今度こそきっと!
「16番、××××さんです!」
・・・・・っ?!
なぜだ?
俺には素質がある。練習だって、できる限りしている。
できる限り。
そうか。仕方がないんだな。
あいつらと俺では、決定的な違いがある。
行っているのかいないのかわからない、行ったとしてもいったい何をしているのかわからない、有り余るほどの時間を持っている学生のあいつらに、練習量で俺がかなうはずが、ないじゃないか。
勉強も、ちゃんとしたい。
でも働かなけりゃ、学費も払えないし、生活もできない。
この俺が、かなうはずなんか・・・・
ああ、もっと時間があれば・・・・満足のいくほど練習ができれば・・・・
“俺が時間を提供してやろうか。”
・・・・誰だ?おまえ。
“これは失礼。俺は、ユーリ。”
ユーリ?
“そう。”
時間をくれるって、いったいどうやって?まさか、魔法でも、使えるっていうのか?
“魔法なんて、使えるわけないだろ。”
じゃ、どうやって?
“俺は、夢と現実の間に住み、夢の方を司る者。だから、夢の中での時間なら、君に提供できる。”
夢の中の時間?それは、いったい・・・・
“簡単にいえば、夢の中で思う存分に練習ができる、ってことさ。現実の時間じゃ、もう練習のために割ける時間なんか、無いんだろう?”
うっ、まぁ・・・・
“だから、眠っている間の時間、つまり君が夢を見ている間に、夢の中で練習ができるようにする、ってことだよ。”
なるほど、夢の中で練習、かぁ。でも、夢でいくら練習できたって、それは・・・・
“ご心配なく。夢の中での練習の成果は、現実の世界でも確実に反映される。俺がそうするから。”
本当か?本当にそんなことが?!
“ああ。俺は嘘はつかないよ。”
・・・・ありがたい。これで思い切り練習ができる。あの大会で、優勝することができるんだっ。
“喜んでもらえれば何より。ただ・・・・。”
何かあるのか?
“まぁ、たいしたことではないけど。夢の中での練習が現実に反映される、ということになると、睡眠中の疲れのとれ方も変わってくるからね。もともと睡眠というのは、心身の疲れを癒すためのものだし。だから、そこの所をよく考えて練習してくれよ。”
ああ、わかった。なぁに、大丈夫さ。俺はまだまだ若いんだから。
あれ?
ここは・・・・これは、夢?
うん、夢だ。確かに俺は眠ったんだから。
でも、俺は自由だ。
こうして自由に動くことができるし、何より『夢だ』っていう自覚がある。
・・・・ということは?!
あれは、本当だったのか?!あいつの言葉は。
“当たり前だよ。
ああ、ユーリ。ありがとう、本当にありがとう!
“礼には及ばないよ。さ、これからは思う存分練習してくれ。ただし、体とよく相談して。”
ああ。納得のいくまで練習して、そしてあの大会で優勝するんだっ。
「さぁ、それでは優勝者の発表です。」
俺だ。今度こそ絶対に、俺だっ。
「第28回全国アマチュアダンスフェスティバル。輝かしい栄光はいったい誰の手に!」
一年間、みっちり練習してきたんだ。練習量で負けることもない。俺が、一番だ。
「発表します。第28回全国アマチュアダンスフェスティバル、優勝者は・・・・32番、××××さんです!」
“おめでとう。”
ユーリ、ありがとう。君のおかげだよ。
“いや、君の努力の賜物だ。”
しかし、君がいなければ、その努力すらできなかったんだ。本当にありがとう。
“君がそんなに喜んでくれるなら、俺も本当に嬉しいよ。で、この先どうするの?”
この先?
“もう、普通の睡眠に戻した方がいいと思うけど。練習時間もそんなに必要ないだろ?”
いや、まだ待ってくれ。確かに目標だったあの大会には優勝できた。でもあれは登竜門に過ぎないんだ。これから俺は、プロになる。しかし、プロにはなれても、それで食っていける人間なんて、ごくわずかなんだ。その中で残っていくためにも俺は、もっと練習をしなければならない。そして、その中にあってさらに頭角を現すためには、人の3倍も4倍もの練習が必要なんだ。だから、頼む。このまま俺に練習を続けさせてくれないか。
“お望みとあらば。だけど、君はこの一年間でかなり体力を消耗しているし、心身共に疲労していると思うよ?”
大丈夫だ、心配ない。なんて言ったって俺はまだまだ若いんだ、多少の無理はきく。それに、自分の体のことくらい自分でわかるよ。
“そんなに言うなら、希望通りにするけど。でも、くどいようだけど、無理をしすぎないように。”
ああ、わかってる。
「お疲れ様でした。」
「ああ、お疲れー。」
ほんと、疲れた。
でも、こんなところでくたばってなんか、いられない。せっかくつかんだ今の地位をこのままキープしていかなければ。
「なぁ、明日の俺のスケジュールは?」
「はい、えーと、7時から10時半までリハーサル、そのあとすぐ、昼食をはさんで14時まで最終ミーティング。そして、18時半からは本番ステージです。」
「7時、かぁ・・・・あと5時間、これから家帰って・・・・あんまり寝れないなぁ。明日、キツイかも。」
「仕方ないですよ、なにしろ今を時めくNo.1のダンサーなんですから。」
・・・・そうだよな、仕方ないか。それに、これが俺の夢だったんだし。
この状態を保ち続けるにはやはり、このままの生活を続けていくしか・・・・そして、新鋭に抜かれないように、さらに練習を積んでいかなければ。夢の中で。
「そろそろ、帰りましょうか。」
「うん、そうだな。」
・・・・っ?!・・・・なんだ?
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない、ちょっと・・・・っ?!」
地震?!・・・・いや、違う。俺が揺れてるんだ・・・・めまいか?なんか、気持ち悪いけど・・・・気持ち、いい・・・・
「大丈夫ですかっ!しっかりして下さ・・・・・」
ああ、だんだん声が遠くなってきた。俺、このまま死ぬのかな・・・・
「死因は、過労による、急性心不全です。」
「おかしいなぁ、僕、空き時間は絶対に寝かせてたのに。熟睡してたのに。他の人よりずっと、睡眠はとってるはずなのに。」
「もともと体が弱かったんじゃないのか?」
「そんな事はない。健康診断でも、どこにも異常はなかった。なのに、なんで・・・・」
「過労って言うくらいだから、やっぱりスケジュールに無理があったんだろうな。」
「きっと、家でちゃんと寝てなかったんだ、あの人は。人知れず、練習していたんだ。」
「そうかもな。でなきゃ、トップの座をあんなにキープすることなんか、できないもんなぁ。惜しい人を亡くしたな。」
「僕のせいだ。僕がもっときっちり休みを取らせていれば・・・・。」
“だから言わんこっちゃない。”
あ、ユーリ・・・・。
“あの時既に、君の体は疲れ切っていたんだよ。だから無理するなって言ったのに。”
いいんだ。いいんだよ、これで。俺の望みは叶ったんだから。
“こんな結末になってもか?”
ああ。いいんだ。ありがとう、ユーリ。君のおかげだ。
“君がそれでいいなら・・・・。”
なぁ、ユーリ。最後にもう一つだけ、頼まれてくれないか?
“なんだい?”
俺のマネージャーに伝えてくれないか。俺がこうなったのはおまえのせいじゃないって。でなきゃ、あいつは・・・・
“おやすいご用さ。”
ありがとう、ユーリ。
“ああ、確かに頼まれた。だから、君はもう余計な心配なんてしないで、ゆっくり眠るんだ。再び生まれ変わるときまで、ゆっくりね。”
ああ、そうするよ。本当に、ありがとう。
“じゃあな。おやすみ。”
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