第65話

★★浩史視点★★

 さぁ、街についたぞ。

 俺の勇者伝説の始まりだ。

 町の入り口には、よく小説であるような門番みたいな者は立っていない。犯罪者でも素通りじゃないか。

 王都でもないかぎり、そんなもんなのか?

 いや、待てよ?

 入り口に百葉箱みたいなものが設置されている。あの中に魔道具でも入っていて、出入りする人の犯罪歴など自動でスキャンできるとか?

 まぁいい。門番がいなかったのは、想定外だ。

 門番にギルドと神殿の場所を尋ねるつもりだったが問題ない。

「すまん、ちょっと道を尋ねたいんだが」

 道を歩いていた冒険者と思われるいで立ちの男に声をかける。

 日本にいたころには、とても怖くて声をかけられないような、スキンヘッドのガタイのいい男だ。

 目が細くて、ほほにひきつった古い傷跡が残っている。

「あ?お前、よそ者か?」

「ああ。今この町に着いたところだ。それで、ギルドがどこにあるのか教えて欲しい」

「ギルド?ギルドに何の用だ?何か依頼でも出しに行くのか?」

 男が、俺の姿を上から下まで眺めて尋ねた。

「いや、冒険者登録をしに行く」

 そして、ステータスを確認する。

「ぶははっ、なんだ、何の冗談だ?」

 げらげらと、男が笑い出した。

 む。これが、新人をからかったり手を出したりする先輩冒険者の洗礼イベントか!

 うーん。こうもテンプレイベントが発生するってことは、ここはもしかしたら俺の知らないゲームの世界なのか?ゲームの世界に転移ものも、定番だしな。

「冗談じゃない」

「は?冗談じゃないって?じゃなきゃ、冒険者を馬鹿にしているのか?誰でもできる簡単な仕事じゃねぇぞ!子供のころから小さな依頼をコツコツと受け、訓練を積み体を鍛え、技を習得してランクを上げていくもんだ」

 スキンヘッドの男が、細い目を、少しだけ開いて俺の顔をにらみつけてきた。

「知っているさ、お前こそ、俺を馬鹿にしていないか?俺を誰だと思っている」

 勇者だぞ。異世界から召喚された勇者様だ。まぁ、今はまだ覚醒前でちょっと力は出せないけどな。

「知るわけねぇだろ。お前、いくつだ。もう20歳は過ぎてるだろ。そんな年齢から冒険者をやる馬鹿なんていねぇよ。鍛えてるわけでもねぇ、ヒョロヒョロの体して」

 どんっと、スキンヘッドが俺の右肩をついた。

 うおうっ、なんて馬鹿力だ。

 トントンと、後ろに二歩よろめく。だが、倒れたりしないぞ。どうだ。

「悪いことはいわねぇ、冒険者になるのはやめておけ」

 スキンヘッドが俺に背を向けて立ち去ろうとしたのを、肩をつかんで引き留める。



==============

視点が戻りますとかくまでしばらく浩史視点続きます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る