第62話
「さっさと街から出ていきなっ!」
ミミリアが足を振り上げた。
蹴られる!と思ったものの、とっさに動いて避けることもできずに、まともに顎を蹴り上げられた。
痛っ。
上半身が後ろに反れ、血の味が口の中に広がる。
少し舌をかんだようだ。
「くすくす、犯罪者なんでしょう、いい気味」
「よほどあの女性もひどい目にあったのね。恨みのこもった蹴りだわね」
……日本じゃ、いくら相手が犯罪者だったとしてもこれは暴行罪だ。この世界ではそうじゃないんだろうか。
周りの人は何も言わないし、建物の前に立っている犯罪を取り締まるはずの聖騎士も全く動きはしない。
つつーと、口の端から血が流れ落ちる。
そのまま、ミミリアに視線も向けずにぽたりと石畳の地面に血が落ちるのを眺めた。
顎が痛い。頭がくらくらする。ボクシングとかで顎を南下すると脳みそが揺れてなんとかって……。大丈夫かな、私。
ポーション飲めば大丈夫かな……。
「バイバイ、二度と私の前に顔を出さないでね。あー、出したくても、もう街に入れなかったんだねぇ。追放だもんね。くすくす」
ミミリアは楽しそうに笑いながら去っていった。周りにいた人たちも、いつまでも騒ぎを見ているほど暇じゃないのかどこかへ散っていく。
のろのろと立ち上がって、聖騎士詰所の建物の前から移動する。
といっても、用があるのはギルドなので、隣の建物の前に移動するだけ。
……って、ああ、私この町を日が暮れるまでに出て行かなくちゃならなくなったんだ。ギルドに寄って、いろいろ話をすることはできなくなっちゃったなぁ。
ははは。本当、ざまぁないね。
私が助けることができる人は助けたいとか思ったけれど、それどころじゃなかったみたいだ。
ぽたりと、血が落ちる。
「ああ、これ、どうしよう。返さなくていいのかな?何にも言われなかったし……」
リュックの中から、ポーションを1本取り出す。
ふたを開け、一口飲むと、すぐに蹴られた顎の痛みも治まり、血も止まった。
ふぅーと息を吐きだすと、うわーと人の騒ぎ声が聞こえてきた。
何だろう?と振り返ってぎくりと体を固くする。
血まみれの人が、屈強な体つきの男の人2人に両脇を支えられて連れてこられた。支えている男の人もあちこち傷だらけだ。そうして、もう一人いたひと際体つきの良い男性が、ギルドに駆け込んでいった。
「頼む、仲間がやられた。金を、金を貸してくれ!」
大きな声が聞こえてきた。
ん?金をギルドで借りられるの?
というか、今は金よりも先にすることがあるよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます