第20話

「ノルマが達成できない日の分は借金になるんだよ。宿代と食事代は借金」

 借金?

「そうさ、1本足りなければ銅貨10枚、2本足りなければ銅貨20枚……借金はどんどん膨らんでいく」

 は?

「ノルマを超えた分の買い取りは1本銅貨1枚だと聞きました。足りない分は銅貨10枚?ノルマが達成できるようになっても、借金を返すの大変じゃないですか」

 もし、10本しか作れなかったら、銅貨200枚も借金になってしまう。1日でそれだけの借金。

 返そうと思ったら、ノルマに加えて200本も作らなければいけないということだ。

「別の方法で稼ぐように言われるだけだ。借金まみれになったころに声がかかるさ……」

 別の方法?

「そっちで稼げなくなりゃ追い出される。リョウナといったか、あんたの人生も終わり」

 店長にお尻を撫でられたことを思い出す。

 別の方法って……体を売るとかそっち系?

 ぶるると体が震える。

 借金がかさむ前に、やめなきゃ。今すぐ出て行く?

「ぼやぼやしてていいのかい?今日のノルマだって1本も減らないよ?」

 え?そんな!

 30本作らなければ、今日だけで借金が銅貨300枚。太陽はもう傾き始めている。

 彼女たちは名乗りもしない。ただ私を笑うだけ笑って仕事に戻る。

 当然、誰も作業の仕方を教えてはくれない。

 薬葉を絞って汁を瓶に入れる。たぶんするのはそれだけだ。

 皆の作業の様子を見れば、薬研のようなものに葉を入れてすりつぶしている人、すり鉢のようなものに入れて作業する人と、やり方は自由のようだ。

 使えそうなものは無いかと見渡す。そば打ちに使うようなサイズの木の器が2つ目に入る。

 よし、とりあえずやってみよう。

 器を地面に置き、布に薬葉を大量に包む。

「馬鹿だね、たくさん一度に作ろうとしたって無理なのに」

 また笑い声が聞こえる。

 ……ああ、薬葉は、匂いも見た目も茶葉にそっくりだ。懐かしさに胸がいっぱいになる。

 布にくるんだものを器の上に置き、その上にもう一つの器を重ねる。

 靴を脱いで、その上に立って、足踏み。

 そうだよ。ワインを作る時には葡萄を踏みつぶして汁を出す。うどんを打つときも腰を出すために足で踏む。

 力がいる作業は、手でやるよりも圧倒的に足でやったほうがいい。

 笑い声が止まった。顔をあげると、一斉に視線をそらされる。

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