第11話
◆
「草笛よ。ちょっとコツがいるけれど、慣れれば上手にふけるわよ。パズ君拭いてみて。そうそう、それくらい隙間がある状態で、押しつぶさないように加えて、息をふぅーっと」
パズ君が草笛を加えて顔を真っ赤にして息を吹いた。
あはは。そうよね。いっぱい息を吹いちゃうよね。
何度も息を吹いているうちに、ぷぅーぴぃーーーっと、ちょっと割れたような音が鳴った。
「!!!」
ぱぁーっと輝くような笑顔をパズ君が浮かべる。
そして、私とディールさんの顔を交互に見た。
ディールさんも草笛を口にくわえて何度も息を吹いているが一度も音はならない。
「うふふ、パズ君の方が先に音が出せたね。上手」
思わず手が伸びて、パズ君の頭をなでた。
「ばっ、何してるっ!」
すぐにディールさんの手が私の手首をつかんで、パズ君の頭から引き離した。
すごく怖い顔だ。
「え?あ、ごめんなさい……」
しまった。
唐突に思い出した。日本では頭をなでるなんてかわいいと思うと自然に出る行動だけれど、海外では頭をなでる行為は失礼だと聞いたことがあったんだ。日本じゃないのに、うかつなことをしてしまった。
ディールさんが青ざめてパズ君の顔を見た。
「大丈夫か、パズ」
パズ君はきょとんとして私の顔を見る。
パズ君に大丈夫か確認してるのは、風習的に頭をなでてはいけないのではなく、パズ君の頭をなでてはいけなかったってこと?人に触られるのを極度に嫌がるとか、パニックになるとかいろいろな子がいるよね?
「あれ?大丈夫みたいだな?どういうことだ?まさか、聖なる手の……」
ディールさんが驚いて私の顔を凝視している。
「いや、額に印はないし……そもそもこんな場所にいるわけがないか」
何か小さな声でつぶやいて、一人で納得したように頷いている。何のことだろう?
パズ君が両手で頭をさすってからにこっと笑った。
かわいい。
「あー、えっと、すまん」
ディールさんが私の手を慌てて放した。パズ君を守ろうと必死だったのだろう。強い力で手首をつかまれていたため、離された手首が赤くなっていた。
「いえ、大丈夫です」
「その、パズは頭を触られると、ちょっとおかしくなる……んだ。いや、今は大丈夫だったけれど……あー、」
ぷぅー。ぷぅー。草笛の音が響いた。
当人であるパズ君は全く気にした様子もなく、草笛に夢中だ。
よかった。知らなかったとはいえパズ君に不快な思いをさせてはいないようだ。
「今後気を付けます。パズ君、すごい。その調子。ねぇ、パズ君、もし何かあって助けを呼ぶときは笛をならせるように。どんな葉っぱを使っても慌てていても鳴らせるようにいっぱい練習するんだよ?」
今度は頭をなでないように気を付けながらパズ君を褒める。
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