第7話

★浩史視点★

「あー、なかなか街は見えてこないな。もう1時間以上歩いてるよなぁ」

 って、あれ?もしかして?

 狼のような犬のような生き物が見える。

 木を背にして、女性が立っている。その前に犬。

「テンプレ来たぁ!これは女性を助けて、ありがとうございますと一緒に旅するアレだ!とくれば、かわいい子だろう」

 女性の顔が見えるところまで近づくと、犬がこ俺に気が付いて顔を向けた。

「うわっ、さすが異世界っ。像みたいな牙のある犬か!だが所詮は犬だろう?」

 ドラゴンやフェンリルならまだしも、犬ッころなど勇者の俺の相手ではない。

 チート能力がまだ何か分からない。けれど、死ぬようなことはないだろう。

「うわ、美少女」

 牙犬におびえていたのは、光が当たるとほんのり水色に髪の毛が輝く金髪の美少女だった。

 10歳くらいだろうか。

「んー、さすがにちょっと地球での倫理観が邪魔だなぁ。行くら勇者様ってすり寄られても子供に手を出すようなクズじゃないからな俺」

 10年……20歳になるまで手は出せないよなぁ。いくら若い子が好きでも、若すぎるのも駄目だ。

 少女が俺に気が付いたようで、涙目になりながら、小さな声で助けてと口にした。

 はいはい。もちろんテンプレ通りに、助けますよ。もしかしたら貴族のお嬢様かもしれないし、かわいいお姉さんがいるかもしれないし。

 ポケットから多機能ナイフを取り出す。1万ほどの31種類もの機能を持ったナイフだ。

 10センチほどの長さのものからナイフを取り出す。……どれだ?これか?ナイフでもいろいろあるよな。よし、これでいいか。

 犬ッころをにらみつける。とびかかってきたしゅんかんに、これで目を突いてひるんだすきに首を掻っ切る。

 それとも、あえて口の中に手を突っ込み内側から喉をつぶしてやるか?

「お前の相手は俺だ、こい!」

 一歩踏み出し、ナイフを犬に向けて突き出す。

 思った通り、犬っころは大きな牙を生やした口をぐわっと開けて俺にとびかかってきた。

 目だ。目を狙おう。

 突き出したナイフは犬の顔をそれた。

「避けられただと……?」

 その瞬間、二の腕に鈍い痛みを感じる。

「ぐあっ」

 犬が、牙で俺の二の腕を切り裂いたのだ。

 パーカーは切り裂かれ吹き出た血で汚れていく。

「痛い、痛い、なんだ、この痛みは……っ」

 再び犬が顔をこちらに向け、威嚇するように低い唸り声をあげる。

 なんでだよ、どうしてだよっ。

 俺は迷わず駆けだした。

「あっ」

 少女の小さな声が聞こえる。

 逃げないと、殺される。あの犬っころに。

 きっとあれは、犬に見えたけれどフェンリルのような高位モンスターに違いない。

 まだチート能力も開眼してないのに勝てるわけがない。

 二の腕を手で押さえて、全力でその場を外れる。

「ぐるぐるるーっ」

 犬は、数メートルだけ俺の後を追いかけようと動いたものの、狙いを少女に戻したためかそれ以上追ってこないようだ。

 た、助かった?

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