第4話
「はぁー、泣いてる場合じゃない」
グイっと顔を上げて道の先を見る。
振り返らない。浩史の後は追わない。前を向く。前に進む。
「とにかく、道があるんだから道に沿って進めばどこかにつくはず。村か街か知らないけど……飲むもの、食べる物、それから寝る場所、そう、仕事……帰り方……いっぱい探さないといけない」
幸いスニーカーだ。
長距離歩くのに向いている靴でよかった。これだけは素直に浩史に感謝しよう。
歩き続けること、1時間だろうか。
リュックの中に入れてあるスマホを取り出し時間を確認。
「ああ、圏外って、当たり前か。ネットはつながらない。当然か。となると……」
電源を落とす。いつまでもつか分からないけれど、電源を入れておくよりは長持ちするかな……。モバイルバッテリーもあるし、ダイナモソーラースマホ充電器もあると言えばあるけど、スマホは使わないよね。
鞄の中にはほかに、財布に化粧ポーチ、食べられそうなものはない。
荷物を鞄に戻して、リュックを背負う。そういえば、鞄が日本とつながっているっていう異世界にいっちゃう話を昔読んだよなぁ。無色独身アラフォー女子のなんとかっていう本。……あれ、言葉が通じなかったよね。大丈夫かな。
リュックを背負いなおして再び歩き始める。
「新宿の街をいろいろ見ながら歩くと1時間なんてすぐなんだけどなぁ」
たくさん歩いたつもりが30分程度しかたっていなかった。
代り映えのしない景色に、話し相手もいなくて……時間がたつのが遅く感じる。
どれくらい歩けば人のいるところに出るだろう。
歩き続けずに、水だけ確保できるように何か探した方がいいだろうか?
色々考えだすとこのまま日が暮れたらどうしよう、このまま食べるものも飲むものも見つからなかったらどうしよう、このまま……と、不安要素ばかりが頭をよぎる。
そうじゃなくて、私が、どうするかを考えないと。
仕事。何があるんだろう。私でもできる仕事はあるだろうか。
浩史はギルドへ行けと言っていた。自分は勇者だとも言っていた。私だって、流石に勇者やギルドは知っている。
勇者は魔王を倒す旅に出る者で、ギルドは冒険者が仕事を探しに行くところだ。
私には冒険者は無理だ。
大学3年の就職活動が始まったばかりのことを思い出す。上場企業だったりとか、総合事務職だったりとか、会社の名前や職種で絞っていく。そして、現実が見えてくる4年生。上場企業から名前は知っている会社、それから名前も知らない中小企業へ。さらには総合事務から事務、営業事務へと……就職は、自分が選ぶんじゃない、なんとか選んでもらわなければならないものだと意識が変わった。
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