掌編小説・『老後』
夢美瑠瑠
掌編小説・『老後』
(これは2019年6月5日の「老後の日」にアメブロに投稿したものです)
掌編小説・『老後』
いよいよ「待ってました、定年」の時が来て、これ以降はリタイアした老人という身分になった。まあ、待ちかねていたというのは事実で、そこそこ貯金もあるので、老後は海外に移住しようか?夫婦でそういう話になった。
定番はニュージーランドとか?税金が安くて福祉の充実した北欧の国などかと思うが、私たちは、「赤毛のアン」のふるさとである、カナダのプリンス・エドワード島に移り住むことにした。
妻も私も「赤毛のアン」を子供の頃に読んだ世代で、素朴な憧れを抱いているのだ。
アンのように美しい「アイドル・ワイルド」の森を散策してみたい・・・
いろいろとネットなどで下調べをして、現地の行政機関とメールでやり取りをしたりして、かなり大きな一戸建ての家を購入して、「となりのトトロ」の冒頭みたいな感じにレンタカーでその家に繰り込むという、次第になった。
「緑の切妻屋根」=グリーンゲイブルズ、のうちに住みたいという要望をしていて、その通りに、“アンシャーリー”の住んでいた家そっくりのうちに住めることになった。
多分観光地なので、そういう希望をする人は多いのだろうが、それ用に緑の屋根の家を新築したりしてきたという歴史もあるかもしれない・・・
「トトロ」の冒頭のように、夫婦二人ですす払いをして、古道具などを片付けていると、「ハーイ」と声がして、可愛いお客様が来た。
小柄な少女が庭先にたたずんで微笑んでいる。
「ハロー。アーユーニューカマーズ?ウェルカムツーアボンリー」
なんということだ、アンシャーリーのイメージそっくりの赤毛の三つ編みの女の子です!
「イエス、ナイスツーミーチュー。ワッチャネーム?」
「アイムアンシャーリー。アンオブグリーンゲイブルズ」
そう言って、けらけら笑う。
「リアリー?アーユーキディング?」
「オフコース。アイムアナショナルサイトシーイングエージェントズスタッフ。
ズイスイズアサービスフォーニューカマーズ」
そういうことか。「カナダへようこそ」というあいさつ代わりにこの少女が「観光大使」として来てくれるということだな・・・
流石は「赤毛のアン」の地元である。
それであなたは「アン」を読んだことがあるのか?と訊くと「ない」という。
読んでいるのは日本のマンガばかりで、そんな昔の話を読むようなダサい友達もいないという。クラスでは「ドラゴンボール」が流行っていて、ネットがあるからAKBの歌も知っているらしい。
・・・ ・・・
時代はやっぱり変わってきているなあ・・・アナクロな旧人類の私たちが過ごす「老後」としてはやっぱりここが相応しいかもなーとその夜に話した私たちでした。
<了>
掌編小説・『老後』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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