第2話 弐

それから暫くの間、涙が止まらなかったのです。

この日から三日後、ファレミィはミンデル村の村長の家にいて 其処には鬼族の男性、鬼族長のオドソン28歳がいます。

鬼族長は鬼族の中でも一番偉く、次期鬼族長候補の一人でもありまして オドソンは次期鬼族長候補として選ばれております。

鬼族長になるには鬼族の中でも強い者が選ばれるのです。

そして鬼族は他の種族よりも戦闘能力が高い為か 鬼族の中では最強の存在でもあります。

鬼族最強と言っても過言ではないでしょう。

そんな鬼族長のオドソンがいるのに何故、

鬼族の女であるファレミィがいるのかと言いますと それはファレミィ自身が鬼族だからなのです。

ファレミィはミンデル村の村長の娘であり 現在は鬼族長の孫娘でもあるのです。

「ファレミィ、大丈夫なのか?」

「はい……」

「ジャレック王子との婚約は破棄されたみたいだがまだ辛いのだろ?」

「えぇ……」

「無理はない事だな」

「あの、オドソンさん、私は如何したら良いと思いますか?」

「そうだな……今はゆっくり休んだらどうかな?

それとジャレック王子の事を忘れるしかないだろう」

「そうですよね」

「それしか方法はないな」

「はい……」

「元気を出したまえ、そんなに落ち込んでいると駄目だよ」

「わかりました」

「それじゃあ、元気を出して頑張ってくれ」

「頑張ります」

そう言われてもやはりジャレック王子の事を思い出すだけで また泣きそうになるのですが、

それでも何とか堪えているのです。

そんなファレミィを見たオドソンは心配になってきて どうにかしないとと思っている様子なのです。

鬼族長は代々受け継がれてきた指輪を持っており その指輪を持っている事で歴代の鬼族長が誰であるか分かるのです。

オドソンは先代の鬼族長から貰った 指輪を取り出して見てみると指輪の紋章は 間違いなく、初代の鬼族長と同じ紋章なのです。

つまり、オドソンも歴代の中で強い者と言う証拠なのです。

「ふむ、此処にも鬼族長の証があるな」

「そうですね」

「そう言えば、ファレミィ」

「何でしょうか?」

「お前は本当にジャレック王子と結婚する気だったのか?」

「いえ、全然そんな事はありません」

「そうか」

「それにジャレック王子は私の事を好きではありませんでした」

「確かにそうかもな」

「そう言う訳で婚約は破棄されてしまいました」

「そうだな」

「もうジャレック王子とは会えないのかな?」

ファレミィはとても悲しそうな顔をしているのです。

ジャレックは今、何処にいるのかもわからない状況なのでして ファレミィにとっては辛い状況なのです。

そんなファレミィを見てオドソンは何時迄も落ち込んでばかりはいられないと思い、ファレミィにこう言います。

鬼族長のオドソンに言われた言葉に少しだけ気が楽になったのか、少し笑顔になっているファレミィです。

今のファレミィは悲しい気持ちで一杯ですが少しずつ立ち直って行きたいと思っております。

そんなファレミィを見ているオドソンも安心してホッとしているのです。

ジャレック王子に婚約を破棄されてからの日々を過ごしたのですが それでもファレミィはまだ少し悲しい気持ちです。

そんな中、ある日の昼頃にミンデル村から少し離れた草原にて ファレミィは鬼族長のオドソンと一緒に狩りをしているのです。

鬼族長のオドソンとファレミィの二人は獲物を探しており オドソンは弓を構えて矢を放ちます。

放たれた矢が見事、鹿に命中して仕留めたのでした。

オドソンは鬼族長としてだけではなく、狩人としても優秀で 狩猟の腕もあるのです。

オドソンの放った弓矢が見事に命中した事を確認したファレミィは喜びながら オドソンの方に向かいます。

オドソンとファレミィの二人はお互いに笑いながら握手します。

「流石です、オドソンさん」

「いやいや、それほどでもないよ」

「オドソンさんの弓矢の腕前には感服いたしました」

「ありがとう」

「さて、獲物を解体するとするか」

「はい」

オドソンとファレミィの二人が協力してシカを捌いているとそこに一人の男性が近づいて来ます。

「おぉ~、これは凄いですな」

「ん? 君は一体誰だ?」

「申し遅れました、私の名前はルメヤと言いまして」

「俺は鬼族長のオドソンです」

「私はミンデル村村長の娘、ファレミィと言います」

「お二人とも初めまして」

「それで、君が此処に来た理由を聞かせてくれるか?」

「ファレミィの婚約者に成りたくて来たんだよ」

そう言われるとオドソンとファレミィの二人は驚いた表情を浮かべています。

鬼族長のオドソンとミンデル村村長の娘であるファレミィの二人の前に突然現れたのは鬼族ではない男、人間の男性です。

人間とは鬼族にとって天敵とも言える存在であり、鬼族長のオドソンは警戒しながら鬼族では珍しい剣を抜き構えるのです。

そんなオドソンに対してファレミィは慌てながら言います。

ファレミィの話を聞いたオドソンは納得したのか、鬼族としては珍しく優しい性格の持ち主なので直ぐに剣を鞘に納めます。

鬼族の中でも一番戦闘力が高いと言われているオドソンが優しくて良かったと心の底から思うファレミィなのです。

鬼族長のオドソンとファレミィの二人はルメヤと名乗る男性の方を向き直り、鬼族長のオドソンが言います。

「成程な、ファレミィの婚約者になりたいと言う理由は分かった」

「俺の事はどう思っていますか?」

「そうだな、悪い奴ではないと思うが、君の事をよく知らないのでね」

「そうですか、まあ、それも仕方がないか」

「所で、ファレミィとはどのような関係なんだ?」

「ファレミィは幼馴染みです」

「ほう、そうなのか」

「はい」

「それなら、どうしてミンデル村にやって来たんだ?」

「ファレミィに会いたかったので」

ルメヤは真剣な顔をしながら答えてみせ、その事を聞いたオドソンとファレミィの二人は呆気に取られてしまうのです。

それから暫くの間、沈黙の時間が流れていき、オドソンが口を開き、ファレミィの事を話そうとしています。

「オドソン、私はルメヤとお付き合いしたいですっ!」

そうファレミィが言うとオドソンとルメヤの二人は驚いてしまい、オドソンは慌てて言い返します。

「何を言っているんだ、ファレミィ! この人間は鬼族の敵である人間だぞ」

「でも、私はこの人とは仲良くなりたいんです」

「そうか、わかったよ、但し、この人間がファレミィに何か危害を加えるような真似をしたら、

その時は覚悟してもらうからな」

「はい、わかりました」

「うむ、それじゃあ、二人で幸せになるんだぞ」

「はいっ」

「わかりました」

そう言い残してオドソンは立ち去り、鬼族の里へと戻って行くのでした。

オドソンが立ち去った後、ファレミィは早速、ルメヤに話しかけます。

「これから宜しくお願い致しますね、ルメヤ」

「こちらこそ、よろしく頼むよ、ファレミィ」

こうして、鬼族長の孫娘であるファレミィと鬼族ではない人間の男性であるルメヤの恋が始まったのでした。

ファレミィとルメヤの二人はミンデル村の村長の家に帰って来て、村長である父であるロナガンに報告する事になりました。

「ただいま戻りました」

「おお、ファレミィ、おかえり」

「お父さん、只今帰りました」

「それで、婚約は破棄されたみたいだが、大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」

「そうか、それは良かったな」

「はい」

「ところで、其方の方は?」

「あぁ、彼は私の婚約者になってくれた方ですよ」

「そうか、それじゃあ、自己紹介しないとだな」

「そうですね」

「初めまして、僕は鬼族ではなく、人間です」

「そうか、鬼族ではないが、名前は何というのだ?」

「僕の名はルメヤと言います」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

成程ね、そうなるとやっぱり難しいよね~ 一ノ瀬 彩音 @takutaku2019

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ