上泉信綱。

ノブ何とかと言う冒険者は3日前にこの村に来て宿泊していた。

何でもインペリアルタイガーって魔物を追って来たらしい。


「インペリアルタイガーって何ですか?」

「タイガーの最上位種ですよ。凄く強い魔物です」

「どのぐらい強いんですか」

「う~ん・・・ドラゴン種の下ぐらいだと思います」

「あの・・・シャッセで暴れた、元神の魔物と比べたら」

「いくらなんでも祟り神と比べないで下さい。あれは神獣より遥かに強いんですから。それに祟り神のせいで、オークやインペリアルタイガーが、巣から逃げ出したのだと思います」

四姉妹の三女が説明してくれる。

やはりあの事件はかなり大きな影響をこの世界に与えたようだ。


「あの男性冒険者はかなり腕がたつんですね」

「インペリアルタイガーを相手に出来るのは、私達パーティークラスだけど、一人で相手する魔物と違うわね」

「でもあの人魔法が使えませんよ」

「えっ、・・・うそ」

「いえいえ、本当に生活魔法しか持っていませんでしたよ」

「物理攻撃だけで追ってるの?」

「でしょうね。しかも普通に徒歩で追ってる様です」

「あっ、だから行きすぎてこの村に来ちゃったんだ。探査も使える訳が無いしね。本当に交戦してるのかしら?」

「あの人の天恵をお宅の四女さんから聞いたんだけど」

「あー、あの子ぺらぺらと」

「すいません。僕が無理に聞いたもので・・・。で、天恵なんですが、武闘に関するものじゃ無いんですよ。漫画って天恵なんですよね」

「それ、言っちゃう」

「あー・・・、でもインペリアルタイガーって強いんですよね」

「心配してるんだ」

「だって天恵が漫画ですよ!」

僕はくまさんの漫画を出して三女に見せた。

三女は漫画に見入っていた。

いやいや、そこはあの冒険者を心配しょうよ三女さん。

「あの人変な名前だったな」

三女さんが言う。

「ノブツナって言ってた」

・・・・・んっ。「信綱?、転移者?」その場はそれで終わったけど、少し心に引っ掛かった時代劇風の名前。



一応索敵は続けている。

イワレ様に頼んで各地の神様にもお願いしておいた。

「あいつは強いくせに用心深いんだ。人に近づかないけど魔物は大好物なんで、オークの上位種とか襲う。もしかしたらあのオークを追って来た可能性も有る。ウチ等が居たんで出て来なかったのかもね」

「人に危害は及ぼさないの?」

四姉妹の次女さんに聞いている。

四姉妹の中で誰が好みかと言うと僕はこの次女さんだ。

これはウェステラさんにも見透かされていて、ジト目で見られてしまいアイドルの様なもので、生涯の伴侶はウェステラさん以外にはいないと念を推しておいた。

ウェステラさんもそうだけど僕は姐御肌に弱い。

だけど数ヶ月後に次女さんが妊娠したのには驚いた。

その時の次女さんは本当に嬉しそうだった。

そしてこの人はこの村に冒険者の若者と居着く事になる。

内心ショックだったのは秘密。


「あーヤバい」

「どうした?」

衛士さんが聞いて来る。

「インペリアルタイガーが人里に出そうです」

「解るのか?」

「内陸部の事代主様が教えて下さいました」

「カルムが行くのか?」

「いちおう里の人が心配なので」

直ぐに衛士九人と四姉妹それに、冒険者三人が召集された。

僕の転移魔法で行こうとしたら、三女さんに先にやられた。

やっぱり三女さんは凄い。

「ブラッドオークが来るね。その後例の奴だ」

三女の合図で皆身構える。

オークの上位種ブラッドオークは、衛士二人と三女と僕の魔法を同時に受けあえなく御臨終。

直後に現れたインペリアルタイガーだったが・・・・・が。

突然出て来た漫画天恵の冒険者に一刀のもと斬り倒された。

皆唖然呆然。

「えっ」

「あっ」

「へっ」

「ひっ、一太刀って!?」

まさか?。


聞いてみたかった。

「もしかしてあなた、上の名前とか有ります。」

インペリアルタイガーを斬った冒険者に聞いてみる。

「貴族では無いけど、上泉って名前が有るよ」

!?・・・上泉信綱ってまさかね。

「君ってカルム君だったっけ。何者なのかな?」

二人きりに成った時に聞いたけど、やはりこの人は転移者だ。

「この国の王で・・・転生者でも有ります」

「転生者?・・・ああ、生まれ変わったって人か」

「そうです。あなた転移者ですよね。しかも僕より五百年は昔の日本人」

「えっ、君っていつの時代の人だったの?」

「義輝様が暗殺されてから五百年は過ぎた頃の日本人でした」

「そっか、義輝様が出て来たって事は、私の事も御存じかな」

「上泉信綱・・・剣聖様ですね」

「確かに色んな人に教えたけど、剣聖じゃ無いよ。旅の途中で流行り病に罹ってね、死ぬ寸前で訳のわかんないまま、この世界に来たんだ私は」

「最終的に天下を治めた松平様の剣術指南役は柳生様です」

「松平の小倅が・・・へえ、柳生殿は出世したんだな。」

「インペリアルタイガーを一太刀で屠った腕前の訳が分かりましたよ」

「あはは、有り難う。年取ってからの転移者だから良かったのか悪かったのか、何やら天恵ってのを貰ったらしいけど、絵描きに成ろうにも紙が高過ぎてね。剣術で魔物狩りが職に成っちゃったけど、流石にもう余り身体が言う事を利かないね」

「あれで?」

「私は五十過ぎてるからね」



「大剣で待ち構えたのに」

「少しは槍を使わせてよね」

「まあ私はブラッドオーク倒したからね」

「私なんか手裏剣届かないし」

「剣で倒せる奴かあれ?」


屋外でキャンプを設置している。

簡素な城壁と綺麗な川の側だ。

それ程大きな町ではなく、宿は有るが人数分の部屋が取れなかった。

ギルドに卸したブラッドオークだけでも、冒険者7人分の年収に成った。

インペリアルタイガーはその8倍だったが、半分をノブツナさんは出してくれた。

「いいんですか、ずっと追ってたでしょうに」

「ああまあ、追ってて他の魔物も狩ってたからね大丈夫」

それを聞いて僕は秘かに作り置きしてた、エコバッグ式アイテム袋をノブツナさんに渡した。

「話には聞いてたけど便利だね」

「なんだこれ?」

「ケント紙と画材に筆記用具そして、コピペ1万枚とガリ版紙千枚にガリ版印刷用具です」

「使い方わからんぞ」

「あっ、説明書入ってますから」

「良いのか」

「インペリアルタイガーの素材半分貰いましたから」

「君は受け取って無いだろ」

「僕は国王なので天恵だけで飯が食えます」

「そっ、そうなんだ。羨ましい様で羨ましく無い様な」

「何ですかそれ」

「だって大金持ちになれないだろ」

「・・・良く御存じで。神様に制限をかけられてますからね」

そのアイテムエコバッグはインペリアルタイガー百匹は入りますと説明したら恐縮された。

インペリアルタイガー百匹はおそらく体育館6っつくらいだ。巨体で有る。


数年後元々膝が悪かったのか、ノブツナさんは冒険者を引退して漫画家さんに成った。

その漫画は高く売れてるらしく、十回はうちの店にコピペやら必要な消耗品買いに来られた。


四姉妹の冒険ラブコメだったよ。

絵が可愛い。

けど、六十手前の厳ついおっさんなのに、少女がやたら可愛い。


う~ん、天恵漫画恐るべし。


てか、道場は開かないんだよ、あのおっさん。

何でも剣が日本刀とは違うから、斬り方が違うとか。

そう言えばあの人の剣反ってた。

あの後三女さんがインペリアルタイガーの御礼とかで、刀の打ち直ししてたな。見事な日本刀だったよ。

でも剣聖が子供たちに教えるのは漫画なんだよ。

ちなみに一枚絵の紙芝居は漫画と違って構成が天恵に無いからね。

看板とかは得意らしいけど、構成や台詞までつけるのは難儀らしい。



三女さんはお気に入りの衛士さんとこの村に居を構えて幸せに暮らしてるよ。

次女さんもね。

長女さんは衛士さんの1人と結婚して王都ヘ行っちゃった。

四女さんから手裏剣で落とした鳥を頂いた。この人は村の農家の若者と一緒に成って、狩人みたいな事をしている。

時々僕が海を見る丘でキスしたりイチャイチャしてるので、後ろからハリセンでしばきたくなる。

しないよそんな事絶対に、絶対に。

そしてこの村には美男美女が増えるのだった。

そりゃやる事やりゃあね。

それはまた数十年後の話だけどね。


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