第28話島かおりか!?。
島かおり。
藤鯱様はそんなイメージ。
異世界食堂のねこやに出てくる、クロみたいな感じ。
何処か儚げで薄幸の麗人。
美人だが近寄り難い。
えっ、島かおり知らない?。
まあ、いいや。
愛と死をみつめて・・・。
知らない?。
まあ、いいや。
優美と言うか、雅と言うか、艶かしさより気品が先に漂う。
正に麗人。
唇を見ても、鼻を見ても、瞳を見ても見惚れる。
恐ろしい程の容姿。
だけどね美人とか思わないのは、その美麗さより吸い込まれる恐ろしさを感じる容姿だろう。
秀麗のセイレーンが相応しい。
そんな藤鯱様。
彼女は元々この世界の人だったとイワレ様は言う。
生まれは定かで無く、何処の土地かも分からない。
流人か山家の類いと思われる。
そんなだから生活は貧しく、幼くして売られた。
当時人身売買は御法度だが、商家への年季奉公なる体裁だ。
二十年の年季奉公の賃金は2年間一家が食い繋ぐモノだった。
運の悪い事に商家は盗賊に襲われ彼女も連れ去られた。
山賊生活が続き、正規兵に拘束された時は12歳だった。
性的暴行は無かったが、ぼろ切れの様な扱いを受けたいた。
痩せ細りぞんざいな扱いに虐待の傷跡も痛々しかったと調書に有ったらしい。
里子として農家に来たのがパフスゲンだった。
十五でその家の三男の嫁に成った。
盗賊に付けられた傷は顔にも有り、彼女の美しさを少し削っていたが、三男は優しくそして彼女を愛した。
その三か月後彼女は、河原の茂みで服ははだけ、顔はアザだらけの性的暴行を受けた変死体で発見された。
犯人は長男だった。
美しさに横恋慕し妻が有るにも関わらず犯行に及んだのだ。
刑は河原に首だけ出し投擲による極刑と成ったが、三男は参加せずに姿を消した。
後に森の深くの池で彼は発見されたが、死後数ヵ月にも関わらず、綺麗なままだったと言う。
側の木に木の板が掛けて有り、私の命を以て、妻のフジを神の世界に連れて行って欲しいと書かれていた。
その池が神魚のいる池だ。
フジコ様が神魚を消せ無いのはその為とイワレ様は仰った。
確かに愛してくれた夫を消せるわけが無い。
パフスゲンの住人の被害を分かっていても躊躇しているのだ。
人には退治出来る魔物では無いとイワレ様は言う。
退治出来るのは神レベルだと。
温泉を堪能して眠りに就いた朝方の事。
湖に巨大な水蜘蛛が現れ人々を襲った。
『神魚の成れの果てじゃな』
イワレ様の言葉に僕はリバーシブルのシロクマ着ぐるみを着て外へ出た。
『神魚の魔力が大きく成り過ぎて暴走が始まった様じゃ』
「イワレ様・・・」
「カルムここは私達に任せ村に帰れ!」
非番の衛士長が言うが。
「僕は威厳など無い王ですが、国民を守る程の天恵を貰っています。国民を守れない王など要らない!」
「カルム」
「ウェステラさんであろうと何処の誰であろうと、皆平等に国民です。僕には天啓として与えられた任務と恵みが有ります。逃げるなどもっての他です」
僕は水蜘蛛に魔法を放つ。
火焔の最上級も風の最上級も土も水も、電撃でさえも吸い込まれ消えていく。
「なんて化け物だあれ程の魔法が効かぬとは」
魔法衛士さんが震えて言った。
『カルムあれは元々魔素なのじゃ。魔法は取り込まれるだけじゃ』
そうか、魔法の元に魔法を撃ち込んでも・・・。
『イワレ様、魔素って分子か原子みたいなモノですか?』
『水蜘蛛は分子の塊かな、分子の魔素は原子の魔力が集まり、生命体と成ったものと考えるとよい』
『イワレ様・・・結界を張って貰えませんか。他の人や生き物を死なせたく有りません』
『・・・・・わかった。やれ!』
『フジコ様は何処に?』
『さあな?』
僕はブラウン運動を水蜘蛛の回りに施した。
原子の魔素を思い浮かべ、分子の魔素に当てたのだ。
イワレ様の結界を利用させて貰った。
水蜘蛛は蒸気を発し、真っ赤になりだした。
『あれでは熱を発するだけで分子が分裂する訳では無いぞ』
『でも分子の結束は多少弱まるかもと思い』
『まさか電撃を撃ち込む気か』
『分解しませんかね?』
『触媒でもあれば分からんが』
『何が触媒に成りますか?』
『知らん』
それで良いのか事代主よ。
「最大限の電撃を撃ち込みます。目をそらして見ない様にお願いします」
「「「わっ分かった」」」
「モンスターベアエレクトス!」
バリバリバリ!!。
ゴゴゴ!、ドッドーン。
(カッ!)
スウ~・・・。
「くっ!、消えない、!!えっ」
「あっ、フジコ様」
『ぬう~』
『¢*§∴∈ÅδЖЮ⊿∮━ДДД』
「・・・・・???」
「藤色の光?」・・・・・
『自らを触媒にしおった!』
『でもフジコ様は見事に取り込みましたよ』
『ああ、自分の体と一体にするために、自分の一部を触媒にしたのじゃ。あれにしか出来ぬ芸当じゃわな』
胸を押さえて少し微笑んだフジコ様はこちらに一礼して去った。
「良かった・・・」
『お主気付いておらぬ様じゃが、フジコから相当量の魔素を与えられておるぞ』
「えっ!、僕がですか?」
『今度その着ぐるみ無しで魔法を使ってみるがよい。おそらく護符より遥かに強烈じゃろうて。あっ、着ぐるみは着て実戦しろな、体が持たんから』
エニフグ村に帰って半年。
風の便りにパフスゲンのおかしな病気は終息したと聞いた。
チグナスさんの葉書(木の板だが)にも騒動の沈静化と御礼が書かれていた。
池の柵はそのまま有るらしい。
イワレ様に聞いたが、藤鯱様は良く微笑む様に成ったらしい。
ただ僕が見た時には頬に無かった傷が今はあると言う。
『不思議なものよのう。顔に傷の有る藤鯱の方が、更に美しく可愛く見えるからな』
『そりゃあの傷は旦那様の思い出と言うか、旦那様そのものだからでしょう』
『・・・参ったのう。よもやカルムに諭され様とは』
「カルムよこの温い水は何じゃ」
「村長温泉です」
「少し塩辛いのう」
「海の近くだからでしょう。最近鉱脈や水脈等の地脈が解る様に成ったので、井戸を掘ったら出ました」
渡航客に好評と成った温泉施設は、魔法の威力が知りたくて、着ぐるみ無しで地中に魔法を放った成果とは言えない。
まさか温泉が噴き出すとは思ってもいなかった。
もしかと思い海に空気弾を撃ち込んだら、ハイフットクラブって魔物に当たって浮いてた。
あれは旨かったらしい。
補正値付いた魔法が撃てる様だが、蟹の化物僕も食べたかったなあ。(怒られると思い逃げた)
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