白い海のカルム
日前みかん
第1話十二歳の恵示。
僕はいつも海ばかり見て、友達と余り遊んだ事が無い。
そもそも同世代の子供が少ない。
ここはサウスヴィーク大陸のアウストラ国、そのまたマーチン伯爵領のさらにエニフグ村だ。
つまりど田舎な訳だが、海は大きな島と大きな半島に囲まれて、内海に成っている。その為いつも穏やかに凪いでいる時が多い。
僕はそんな凪いで輝く海を白い海と呼んでいるのだ。
この村は後ろはなだらかな丘陵地帯で、その向こうに標高800㍍くらいの山地が連なる。面積は広いが殆ど山間の狭い田畑で作物を育てている。
小さいが水量豊かな川が2つ流れるが諸侯の土地としては狭い。
北が内海で東は牧草地帯の丘陵。西は低い山地と海の間に、麦や米を育てる僅かな平地がある。
特産品等は無く、海産の乾物や塩漬け、それに塩なんかを山地の向こうの王都などへ送っている。
一番低い峠で標高300㍍くらい有り、馬は崖沿いの道で狭くて無理だ。その為人が背負って運ぶ。
僕はまだ11歳なので、大人の半分程の背負子で、塩運びの手間賃を稼いでいる。
仕事は3日に1度ぐらいで、他の日は海を眺めたり、家の手伝いをする。手伝いは畑の野菜の種を植えたり、水をやったり草むしりに虫取に収穫、それから井戸で水を汲んで来たり沢山ある。だから海を眺めるのは休憩の時くらいかな。時々休憩長くて怒られるけどね。
僕の家は小高い丘の中腹に有って、そこからミカン畑を抜けると海辺の崖に成っている。辺りは草原みたいなもので、そこでいつも海を見るのだ。
今日も風か心地よい。
あと1ヶ月で僕も12歳の恵示を授かるのだが、夢に現れたり突然聞こえたり、色々らしい。
別に12歳ぴったしじゃ無くてその前後に授かるものとか。楽しみでもあるし怖くもある。
そんな事思ってたら突然海から何やら黒い物が出て来た。
???何だろう。
それは黒くて、長方形だった。
あっ、あれドアだ。
そう扉なのだ。
黒っぽい重厚な観音開きの扉。
大きいなあ。
『今よりそなたに天啓を示す』
きれいな女の人の声だった。
どんな天恵何だろう。もうドキドキものである。
『汝神を疑う事なかれ、神の言う臣を選定とすべし』
『汝人の禁を犯すべからず。犯せば神より死を賜る事覚えよ』
『汝心を清く保てば汝は永く生きるであろう』
4つ目は声で無く扉の中に文面が現れた。
・・・臣は即位の後伝える。
ソクイって何だろう?、まあえっか。
民に下される恵示って随分仰々しいなあ。って、いやいや職に当たるモノが無いけど?。
なんか変だな何て思ってたら、『汝に恵みを与えよう』と声がする。
おっ、これが恵示の本文か。
そう思ったが、それはかなり意外なモノで、それ貰って良いのって思わず言ってしまった。
『良い、これが汝の天啓の対価であり、心を清く保つべく対価なのだから』
でも僕そこで買うお金無いです。
そう言うと、扉から黒いカードの様な物が、僕の前にすうっと出て来た。
『そのカードで買うが良い。汝が死ぬまで使えるが、この世界で使えぬ物は買えぬぞ。冷蔵庫とか』
「これって凄いチートだと思うのですが・・・」
『悪事に使えば汝は死ぬし、強欲を覚えれば汝は死ぬ。心して使う事である』
「どこまでが強欲ですか?」
『その品をもって悪徳な商売をすれば強欲とみなされる』
「じゃあ便利な物を人にあげても良いのですね」
『普通に汝が生活する程度の稼ぎなら売っても構わぬ。法外な値段で売るなと言う事であり、その品を以て汝が法外な利を得る事も駄目じゃ分かったか』
「はい解りました」
『この恵みは汝が生活に困らぬ様に与えるものである。心して受け取れ。これで天啓は終わりとする』
そして扉も消え、二度とその声も聞く事は無かった。
まさか夢で見た事のあるあのイヅモヤという、凄く大きなお店で買い物が出来る天恵を授かるなんて、思いもしなかった。
ぐうぅ~・・・。
お腹空いたなぁ。
最初に買ったのは焼き芋だったのは内緒。園芸コーナーでこの芋の種芋も買っておいた。
温かい焼き芋を懐にしまい僕は家に帰ったよ。
家に帰って父と母と妹に恵示が有った事を伝えた。
そして生活が少し便利に成る程度にしか、イヅモヤは使えないものだとも伝えた。
焼き芋は大変好評だったので、その種芋を植える事を了承して貰った。焼き芋は甘くて蜜がとろっとして本当に旨かった。
『天恵では無くて天啓なんだけどな?・・・まあその内気付くでしょう』
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