第92話 王の私室

「アベル、お疲れ様。大変だったね。」

俺はヨシテルと王の私室に移動するとセイが待っていて声をかけてくる。


「セイ、領地に帰ったら戦争になるし、きつかったよ。」

「でも、アベルは暴れすぎだよ。もっとお父様を使えばいいのに。」


「家臣もキレてたからね、それに母の領地に難癖つけられて俺も怒ったから・・・」

「いい、次はちゃんと連絡するように。」

「はい。」

セイに叱るように言われて、俺は素直に謝る。


「あらあら、セイったら早くも尻にしいてるの?そうよ、新婚さんは最初が肝心なんだからね。」

ハルは嬉しそうにからかってくる。


「お母様、そんなのじゃありません。」

セイも顔を赤らめながら否定する。


「そうですよ、叔母上。イトコとして注意してくれたんです。」

そして、俺も普通に反論したのだが・・・


「そう!そこよ!」

「えっ?」

「私をオバサンなんて呼ばないで!呼ぶならお義母さんって♪」

ハルは聞く耳を持っていなかった。


「違うよね!叔母さんだよね!」

「あーあー聞こえナーイ、ほら、お義母さんって、呼んで♪」


呼ぶまでひきそうになかったので渋々ながら呼んでみる。

「はあ、一度だけですよ、お義母さん。」


「うん、いい。ヤッパリ、息子は可愛いわ!」

ハルは嬉しそうにするが、


「だから、ヨシタツがいるでしょ!」

「いいの、息子は何人いても。それにセイと結婚したら息子になるんだし。」

「いやいや、しないよね。いつそういう話になったの!」

「私の中では最初からなってます!」

ハルは胸を張り、当然という顔をしていた。

「なんで自慢気になってるの!叔父上!奥さんを止めてください!」


「ふむ、そこはお義父さんと呼ぶべきではないか?」

「あんたもか!」

ヨシテルとハルは二人して笑ってた。


「なんだ、アベル。セイをもらって、家督を継ぎに来たのか?ほら、持って帰れよ。いや此処が家になるのか?」

ヨシタツは遅れて来たが、部屋に入るなり俺をからかってくる。


「ヨシタツ、俺はイマハルに住んでるの!」

「なんだ、じゃあ、今日は持ち帰るだけか?後で包んでおくよ。」

「ヨシタツ!セイはお土産じゃないからね。」

「私、お持ち帰りされるの?」

「しません!セイもヨシタツの話にのらない!」

ヨシタツとセイもからかってくる。


一通りからかい終わったのか、ヨシテルがまじめな声で話しかけてくる。

「アベル、セイを持ち帰れという冗談が出たが、実際、帰る時にセイとヨイの視察に行ってもらえるか。」


「えっ、冗談じゃなかったの?」

「うむ、今回の一件で私達とアベルの仲を疑う者もいるからな。セイと一緒に行動することで仲が悪くないとアピールして欲しいのだ。」


「それは構いません。しかし、いいのですか?イトコとはいえ、年頃の娘を領地まで行かせて?」

「なんだ、手を出すのか?」

「出しませんけど、そういう噂がたつとセイが困るのでは?」


「かまわん、噂ぐらいが影響するような所に嫁には出さんし、なんなら貰ってくれてもいいぞ。」


「また、そんな事を言う。それで視察って何処を見るんですか?」


「ヨイには魔道具製作所と竜牧場があるからな、その2つを見て貰おうと。」


「竜牧場?」


「アベルは知らんのか?ヨイには竜が飼われていてな、そこから竜の鱗、爪、牙が提供されているのだ。」


「へぇー、知りませんでした。ドウセツに確認してからになりますが、視察を受け入れます。」


「うむ、頼む。」


「なんだ、結局お持ち帰りじゃないか?ラッピングしなきゃなセイ。」


「お兄様、可愛く包装出来ますか?」


「任しとけ!」

ヨシタツとセイはまだからかってくる。


「そこの二人!真面目な話中だよ!」

「そうだぞ、包装なんかしたら顔が見えなくなるだろ?ここはオープンな馬車に乗せて仲の良さをアピールしてもらうんだからな!」

ヨシテルが訂正するが。


「叔父上、それの方が恥ずかしい。」

「引き受けたのだから諦めろ。」

俺はセイと一緒にヨイに戻る事になった。

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