第88話 チロル伯爵
ユグドラシルでは、アベルの行方が噂になっていた。
増税、不景気、苦しい時ほど民衆は英雄を求める。
実際にアベルがいてもどうにもならないのだが、人はアベルがいなくなってから国が傾いているように民衆は錯覚していた。
その為に各地でデモが起きる。
「アベルを出せと。」
そして、民衆が望めば望むほど、貴族達はアベルを疎ましく思う。
「自分達がいるのに何故アベルを求めると。」
両者の隔たりが段々大きくなっていた。
「陛下、民衆はアベルを求めているようですが如何なさいますか?」
マーリンが国王にたずねてきた。
マーリンはランスロットの教育係をおり、今は王の相談役になっていた。
「マーリンか、うむ、オウカ国にいるのは解っているのだ、使節団を出して帰ってきてもらうか。ついでにオウカの王に友好を結んできてもらおう。」
「さすが陛下ですな、見事な慧眼、マーリン感嘆の念を禁じ得ませんな。」
「そう褒めるな、して、使者は誰がいいと思う?」
「そうですな、チロル殿は如何かと。」
「チロルか?あやつはまだ経験が足りぬではないか?」
「経験を積ますのに丁度良いかと、ただオウカに行って親善の使者になるだけですから。」
「そうか、ならば、任せてみるか。」
こうしてチロル伯爵は使節団団長としてオウカに向かう事となった。
チロルは不満であった。
栄えある使節団の団長とはいえ、海の向こうまで向かうとは・・・
しかも、ユグドラシル王国が用意出来た船ははオウカ国の船と違い旧式の木造船だった。
船は外洋に向かず、沈みそうになりながら何とかイマハルにたどり着く。
しかし、チロルの不満は更にたまる。
宿が無いのである。
安い宿ならあるのだが、チロルが望む高級宿がはヨシヒロの同行者達の為に全室貸切となっており、チロルが泊まる余地はなかった。
チロルはそれなら領主邸に泊まればよいと、屋敷に向かい、騒動を起こしたのである。
騒動を起こした後は当然のごとく、町の人も対応が冷たくなる。
安い宿ですら泊まるのを断るほどに・・・
「くそったれ!なんだこの町は!私は使節団団長だぞ!しかも、伯爵なのになんで宿を空けないんだ!」
チロルは結局野宿をせざるおえず、機嫌は更に悪くなっていた・・・
そして、翌日。
「ルル、はやくはやく!」
エリーゼはルルと一緒に町に来ていた。
屋敷にはシマズの人を歓待するために忙しくしていたので、子供達が邪魔にならないように町に連れて来ていた。
「エリーゼ、待ちなさい、みんなと一緒にいないと迷子になるよ!」
「だいじょうぶ~あっ!」
後ろのルルを見ていた為にエリーゼはチロルにぶつかってしまう。
ぶつかった拍子にエリーゼはこけてしまう。
そして、ぶつかられたチロルは・・・
「この無礼者!貴族たる私にぶつかるとは!」
腰に指していた剣に手をかける。
「ごめんなさい。」
エリーゼは謝るが。
「謝って済む話では無いわ!其処になおれ!」
エリーゼは恐怖で泣き出す。
其処にルルが駆けつけ、
「貴族さま!妹はまだ小さいのです。どうかお見逃しを。」
「ならん!ユグドラシル貴族に無礼を働いてただで済むと思わん事だ!」
チロルは無慈悲に剣を振り下ろすが・・・
「貴様何をしている!」
騒ぎを聞いて近くにいたセイカイが駆け付け、剣を腕で受け止める。剣はセイカイの腕の筋肉を斬ることは出来ず表面で止まった。
「なっ、何をする。」
剣を止められた事にチロルは動揺する。
セイカイはチロルを殴り飛ばし。
「アベルさまの御家族に危害を加えようとは!」
セイカイは怒りにチロルを威圧していた。
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