第86話 ユグドラシルの使者強襲
「アベルさま、大勝利にございます。」
ドウセツから祝辞をのべられる。
「俺は何もしてないけど、みんなは無事か?」
「はい、此方の死者はゼロ、怪我人が三百ほどぐらい出ましたが。」
「重傷者は?」
「命に関わるものは誰もおりません。」
「それは良かった。帰国したら治しに行くから、教えてくれる?」
「わかりました。あと、シマズ家のヨシヒロ殿がアベルさまに面会を求めて此方に来るそうです。到着は明日の予定にございます。」
「此方も礼を言いたいし、丁度良かった。ドウセツさん、今回の援護に関して礼をしたいんだけど用意できるかな?」
「はい、既に準備が出来ております。」
翌日俺は港でヨシヒロの到着を待つ。
予定通りに船が着き、ヨシヒロが船から降りてくる。
「ようこそお越しくださいました。
私がヨイを治めるアベルと申します。
この度は援軍かたじけない。」
俺が深々頭を下げると、
「頭を上げてくだされ、某はサチさまの恩に報いたまでの事、それよりサチさまの御子にお会い出来る光栄、こちらこそ感謝しております。」
「母と違い、まだ何も成しておりませんのであまり持ち上げないでください。
私よりヨシヒロ殿の武勇聞き及んでおります。
若輩の私にお聞かせ願えますか?」
「某の武勇など、たいした事はありませぬがアベル殿が所望なされるならいくらでもお話しましょう。」
俺はヨシヒロを伴って、屋敷に戻る。
屋敷では歓迎の宴の準備が出来ており、ヨシヒロを迎え入れる。
「これがサチさまの御屋敷ですか。」
ヨシヒロは屋敷に来たことに感動して涙を流していた。
あまりにヨシヒロが母に思いがあるようなので俺は自分宛の手紙をヨシヒロに見せる事にした。
「ヨシヒロ殿、母の映像があるのですが御覧になりますか?」
「サチさまの映像ですと?勿論見たいですがよろしいのですか?」
「自分宛の手紙ですがヨシヒロ殿が良ければお見せしますよ。」
俺は軍をお越し援護してくれたヨシヒロに敬意を払い、母の手紙を見せる事にした。
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母の手紙を見たヨシヒロは号泣していた。
「アベルさま!あなた様が苦難の時は我等シマズ、国を上げてお守りいたす!」
「ヨシヒロ殿、落ち着いて。」
「誰か、使者を兄貴にサチさまの愛された御子を守る事がサチさまに報いる事と至急伝えろ!」
「はっ!」
ヨシヒロの家臣の一人が外に向かい走り出した。
それから、涙を流すヨシヒロをなだめながら、宴を続けていく。
ヨシヒロの家臣に挨拶に行った時は彼等が平伏して大変だった。
そんな中に俺に知らせが届く。
「アベルさま、先程ユグドラシル王国から使者が参りまして、領主を出せと騒いでおります。如何になさいますか?」
「今はシマズ殿の歓待中だから、面会は明日以降にしてもらって。」
「かしこまりました。」
知らせをくれた執事の人が戻る前にユグドラシル貴族と思われる格好の連中がやってきた。
「これは我等の歓待のようだな、田舎貴族とはいえ良く解っておる。」
勝手に宴に混じり食事をつまもうとする。
彼等が此処に来れたのもユグドラシル貴族ということで、俺への配慮から丁重に扱っていたのが災いしたようだ。
まさか、案内される前に自分でやって来るとは・・・
周囲の冷たい眼を気にしてないのか、我が物顔で自由に振る舞い。
近くにいたアキツグに領主が誰かを聞いている。
アキツグは俺の方をチラリと見てきたから俺は自分から使者に向かう。
「皆さんはどちら様でしょうか?此度の宴は我等の援軍に来てくださったシマズ殿の歓迎の宴なのです。関係ないかたはお引き取りを。」
「いやいや、隠さないでもよろしいのです、私はユグドラシル王国、チロル・フォン・ティローロ伯爵である。この度は王命によりオウカ国に参った、国王への取り成しを許可する。」
「えーと、許可を求めるのではなく、許可をするんですか?」
「如何にも、私はユグドラシル王国の使者である!そもそも、貴殿は何故名を名乗らない、失礼にも程があるであろう。」
「これは失礼を、私はミナモト・アベル・テルユキ、国王の甥にあたるものです。」
「なんと、国王の甥であったか、それは重畳、我等使節団を持て成し、案内するように命じる。」
「御断りいたします。あなた方のこれまでの無礼、陛下に会わすに相応しくない。さっさと国元に帰るがいい。」
チロルは顔を赤くして怒りだす!
「テルユキ殿、他国の使者にそのような態度、どうやらオウカ国というのは礼節を知らぬようですな。」
「どっちがだ。使者殿はお帰りだ、誰かコイツらをつまみ出せ!!」
俺の命令に兵士が動き、使者を追い出す。
「シマズ殿、折角の宴なのに失礼いたした。」
俺はヨシヒロに謝罪する。
「なに、いい余興でしたな。それより良かったのですか?アベル殿はユグドラシル出身とお聞きしてましたが?」
「あれほど、礼を欠いてるものを擁護はしません。」
「確かに酷いものでしたな、普通他国に来ればもう少し腰を低くするものですが。」
「何がしたいのでしょうかね?まあ、それより一献。」
俺は謝罪の意味も込めて、ヨシヒロに酒をつぐ。
「ぷはぁー、さあ、アベル殿も返杯を」
ヨシヒロも俺に酒をついでくる。
俺はそれを飲み干し。
その後は和やかな雰囲気で宴は終了した。
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