第42話 ノースの町

ハインリッヒは領地で五千の兵士を集めた後、急ぎノースの町に来ていた。

そして、ノースの町にて訓練を開始していた。

「ハインリッヒさま、ランスロットさまが退却してまいりました。・・・」

「わかった、すぐに向かう。」

ハインリッヒが其処で見たものは、ボロボロの王子と兵士の姿だった。

「すぐに治療を!あと水と食べ物を用意しろ。話せるやつは状況を知りたい、後で話を聞かしてくれ。」

ハインリッヒはすぐさまランスロットの治療を命じる。

ランスロットは城に着いた安堵からか意識を無くしていた。


目覚めたランスロットが最初に気付いたのは・・・

右腕が無くなっていた。

「なっ!俺の腕が!無い!何故だ町に着いたではないか!」

混乱しているランスロットの元に侍女から意識が戻ったと聞いたハインリッヒがやってくる。

「ランスロットさま、お目覚めですか?」

「ローエン公爵か?俺の腕はどうなった?」

「ランスロットさまの腕は既に腐っており、お命を助けるためには切るしかなかったようにございます。」

「なんだと!町に戻れば治るのでは無かったのか!」

「誰が申したかは知りませんがこの町の医者の見立てにございます。」

「くそっ!その医者の首をはねろ!この俺の腕を勝手に切りおって!」

「それは出来ません、医者はランスロットさまのお命を救ったのです。それを切るのは国の為になりません。」

「くっ!」

ランスロットはローエン公爵が苦手だった。

子供の頃から叱られ、潜在意識の中に逆らえない何かを植え付けられているようだった。

「それよりランスロットさま、軍は壊滅したのですか?」

「いや、俺は治療の為に先に撤退しただけだ、現在ケイの指揮の元、撤退して・・・そうだ!ローエン公爵、国境にトリスタンを助けに行ってくれ!」

「トリスタン将軍を?」

「俺を逃がす為に敵を引き受けてくれたんだ。」

「助けに行きたい所ですが・・・既に遅いかと。」

「なんでだ!トリスタンは掛け替えの無い将だぞ!」

「いえ、敵軍の姿がノース近郊で確認されました。これよりノースは籠城に入ります。」

「なっ!既にここまで!」

「ノースにいる兵のほとんどが急遽集めた兵士なので防衛戦すら危険な状態にございます。」

「クッ!しかし、トリスタンは・・・」

「祈るしかないでしょう。それより私は防戦の用意がありますのでこれで失礼します。」

ハインリッヒが出ていったあとランスロットは後悔をしていた、自分の為に戦争を始めて、兵士を失い、部下を失い、腕を失った。

「すまない、すまない・・・」

失ったものを考え、ランスロットはベッドの上で涙を流していた。


それから1ヶ月、ハインリッヒは籠城戦を繰り広げていた。

ランスロットの帰還から1週間後、サクソン軍の攻撃が始まる。

何度も押し寄せる敵に開戦から1ヶ月で兵士は疲弊し、落城手前まできていた。

元々ハインリッヒは戦争が得意ではなかった、どちらかというと内政官だった。

その事もあり籠城戦の経験も無く、知識だけで兵士を指揮をとり、何とかもたせているという状態であった。

「ハインリッヒさま、そろそろ限界かと。脱出のご準備を。」

古参の騎士の1人がハインリッヒに進言する。

「ならん!ここでワシが逃げたらノースの町はどうなる。何としても守りきるのだ!」

「しかし!・・・いえ、ハインリッヒがその覚悟なら我等も覚悟致しましょう。その上で策があります。」

「なんだ?何かあるなら試してもいいが?」

「決死隊を募り敵に奇襲をかけるのです。奴等は我等が籠城しているものと思っております。まさか仕掛けてくるとは思わないでしょう。」

「しかし、城に戻る術はないぞ。」

「なに、ここは我が国、何処なりとも落ち延びましょう。御決断を。」

「わかった、任せよう。ただし、あくまで志願者だけにするようにな!」

「わかりました。」

決死隊二百が集まる。

その中にはハインリッヒに命を救われたもの、ノースの町を愛するもの、そして、アベルに腕を切られ治された騎士達もいた。

決死隊による夜襲が決行される。


決死隊は敵兵の鎧を着ており、敵に紛れて同士討ちを狙っていた。

「識別はどうする?」

「兜に鳥の羽根をつける」

全員に配られ、

「鳥の羽根がついているものが味方だ、ただし、俺達も同士討ちも覚悟しておけ。」

「ああ!必ずや敵に損害をあたえるぞ!」

決死隊の士気は高い。


密かに潜入した決死隊はかがり火を蹴り飛ばしながら声を張り上げる。

「敵襲だぁ!相手は俺達に変装してやがるぞ!」

「なに!」

飛び起きて出てきた兵士を軽く斬る。

斬られた兵士は更に声を上げる、

「敵だぁ敵が混じってるぞ!」

陣地は混乱しだした、見る相手が全て敵に見え、お互いに斬り合いをはじめだした。


「テュールさま!一大事にございます!」

「ぐがぁー」

「テュールさま!起きてください!」

「うるさい!寝かせろ!」

「一大事です!」

「うるさいと言ってるだろ!お前達で何とかしとけ!」

攻城を任されていたテュール将軍は前夜に酒を飲み過ぎ、起きることが出来なかった。


ハインリッヒは幸運であった、夜襲決行前日にロキが撤退してきていたケイとガレスへの対応に陣を離れていた。

代わりを任された将軍テュールは武勇こそ有れ、警戒心にかける男だった。

総大将を任された喜びから飲み過ぎ、対応を誤った。

その事が幸いして、夜襲で大打撃を与える事が出来た。


夜が明ける頃、サクソン軍の被害が明らかになる、テュールが深酒で対応出来なかった事もあり、明け方まで同士討ちが続き、兵の半数が負傷、死人も千人を越えていた。

この敗戦の報はロキの元にすぐに届けられた・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る