第20話 公爵と謁見
俺は現公爵 、ハインリッヒ・フォン・ローエンに謁見していた。
「アベル殿、このたびは申し訳ない、当家の落ち度だ。」
ハインリッヒに深く頭を下げられ、俺は困惑する。
「ハインリッヒ公爵さま、どうか頭をおあげください。平民の私に頭を下げる必要なんてありません。」
「平民がどうかなど関係ない、悪い事をすれば頭を下げるのは当然の事だろう。」
「わかりました。謝罪は受け入れますから、どうか頭をおあげください。」
そこまで言ってハインリッヒは頭を上げる。
「謝罪を受け入れていただき、感謝します。それと当家の息子と娘を助けていただき、ありがとうございます。ささやかですが、御礼を御用意しました。お受け取りください。」
「ありがとうございます。私も助ける事が出来てよかったと思います。」
俺は会話するだけで汗だくになっていた。
平民の俺が公爵と話す事などあり得ないはずなのに・・・
「父上、アベルさんが困ってます。あとは私に任せてください。」
「まだ、よいではないか?」
「公爵の父上と話すのは貴族でも疲れるのです。実務的な話は私がしますので。」
「ユリウスさま、実務的な話とは?」
「アベルさん、どうです当家に仕える気はありませんか?」
「誠に申し訳ないのですが、平民の私が仕えると軋轢を生むでしょう。辞退させていただきたく。」
「仕方ありません、しかし、当家に暫く滞在してもらえませんか?」
「いやいや、公爵家に滞在など恐れおおくて。」
「気になさらないでください、それにこれ程の不始末をしてしまった以上、周囲にも和解が出来てると知らしめたいので何卒、滞在なされてください。もちろん、最大限のおもてなしはさしていただきます。」
「・・・わかりました。ユリウスさまは強引ですね。」
「すみません、しかし、アベルさんに滞在していただきたいのは本心ですよ。」
「自由に町に行ける事だけは約束していただけますか?」
「勿論です、拘束する気はありません。」
「それなら滞在しましょう。」
「ありがとうございます。」
「あーそれとユリウスさま、ケガの具合はどうですか?」
「ええ、お陰さまで、少し引摺りますが痛みも少なく、助かってます。」
「それはいけない、あの時治療の途中でしたから、ユリウスさまがよろしければ治療の続きを行いたいのですが?」
「治るのですか!」
「確証はないのですが、少しは良くなるかと。」
「是非お願いします。」
ユリウスは頭を下げて頼んでくる。
「ワシも見さしてもらってかまわぬか?」
ハインリッヒも治療が気になるのか見ようとしてくる。
「ええ、かまいませんよ。どうしますか、ここで今からしますか?」
「お願いします。」
そうして、俺はユリウスの足に手をあて回復魔法を使用する。
「あーやはり気持ちいいですね。」
「すぐに終わりますから。」
俺は魔力を足の奥底まで届くよう意識しながらケガをしていた箇所にゆっくり手を這わす。
「ユリウスさま、終わりました。足の具合はどうでしょう?」
「あ、ああ、終わりましたか、気持ち良くて寝てしまうところでした。足は・・・痛みが無い、動く、動きます。」
ユリウスは最初、恐る恐る動かし、最後には跳び跳ねて確認していた。
「ユリウス、そんなに動いて大丈夫なのか?」
ハインリッヒは心配そうに聞くが、
「父上、まったく大丈夫です。痛みもまったくありません。」
「なに、それはすごい・・・」
ハインリッヒはユリウスの足を治そうと教会の治癒士に打診していたが、ケガの後遺症を治す事は出来ないと断られていた。
教会が治療出来るのはキズをふさぐという治療のみで、アベルのように身体の欠損を治したり、筋肉の引っ張る感じを治したりは出来なかった。
「アベル殿、そのお力は素晴らしいものですな、今まで名前が知れていない事が信じられない。」
「このスキルに目覚めたのが最近ですから。あまり、実証出来ていないのです。それにあまりにやりすぎると教会に眼をつけられてしまいますから。」
「そうでしたか、それならば我が公爵家が後ろ楯となりましょう。何かあれば当家の名前を出してください。」
「いいのですか?」
「かまいません、息子と娘を助けていただいたのです。それぐらいはさしてください。」
「ありがとうございます。」
俺は深く礼をのべる
「お父様、お兄様、お話は終わりましたか?」
ユミナが謁見室に入ってきた。
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