渡辺多恵子『風光る』最終巻について
芹沢 忍
第1話
最終巻が発売になりました。長かった! まさかの45巻です。お疲れ様でした。
作品をご存知ない方へのご紹介。
父兄の仇討ちを果たすために壬生浪士組(後の新選組)へ男として入隊したセイ。しかし幹部である沖田総司に女である事がバレてしまう。
武士として入隊したセイの覚悟を理解した沖田は事実を知った上で、セイを武士として扱い、陰ながらセイを支えていく。
セイは武士として沖田を慕うが、いつしか女として慕う気持ちも芽生えていく。だが、武士としてね生き方を貫く決意はゆるがず、隊内でも一目置かれる人物へと成長する。
武士とし生き抜いた幕末の少女の物語といったところでしょうか。
実はこの作品、最終回の内容が炎上したようなんですね。以下ネタバレです。
史実では沖田が病死。医者の娘が面倒を診ていたとか、その娘と子をなしただとかいった話もありますが、その辺りはハッキリとしません。
実は私、新選組オタクです。上記の事を考えて話を書いてるんだろうなぁと思っていたので、セイと沖田が夫婦になるのは想定してました。
でも、そうすると新選組の最期まで書ききれない。しかも武士としての誇りを、最後の最後で恋愛モードってされてもなぁ。
沖田との子供を抱えて、土方の戦死を聞いて「沖田先生、副長が逝きました。私はあなたの息子を育ててから、そちらに向かいます。今暫く待っていて下さい」とかなるのかなぁ。とか思ってました。
こうなってたら「ふざけるなぁ!」ってなってましたね、確実に。
セイ、武士だよね?
生き方全撤回かよ!
確かに二人の恋愛重視だけと、
沖田が惚れたセイは
どこに行ったんだぁ〜!
となったに違いないです。でもね、きっと読者は二人の未来を見たいんだよ。落としどころは二人の子供なんだよなってのは解ります。
沖田の病状が悪くて、セイを抱く体力なんて残ってないって考えてもいないんだろうな。
そんなことしちゃったら、沖田が死んだら、真実の妻だから、一緒に逝きますとかなるだろう、セイなら。遺髪を届けろと言われていても、完全に女となったら武士としての任務にはつかないと思うな。
多分、作者も想定はしてたと思うんですね。だから、二人は男女の仲にはならなかったと考えます。
じゃあ、セイが確実に生きるにはどうしたらよいのか。
遺髪を土方に届けるまでは大丈夫だけどその後は?
まぁ、この後の展開が炎上理由なんですよね。解らなくはないんだけど、書き手としては仕方がないと思うよ。私も同じような事したと思うもん。
炎上理由。セイが土方の子供を身籠る事になったこと。しかも強姦まがいなシーンがあること。場所が五稜郭すしね。
書き手としての心境でだと必須たと感じますが、読者的には複雑。
土方は近藤の死に対し、武士らしく死なせられなかったのを悔いてます。セイは死に場所を求めています。沖田の意思はセイを幸せに生かす事です。
土方は最期まで武士らしく生きた者達がいた事がを残したい。これは近藤の生き方が誇らしく、汚名を着せられた事を払拭したいと願う気持ちがあるからです。
セイは心根が武士です。意志を継げる者です。沖田の意志を運び土方の元へやって来ましたが、武士として死に場所を求めています。この思いは土方と同じ。
沖田は二人の本質が似ていると感じていたので、互いに弱った気持ちをさらけ出す事が可能だと判断してセイを土方の元へ送ったと考えられます。
強がりな土方を受け止められるのは自分の他はセイだけ。沖田はそう考え、土方はそれを理解した。その上で、女である事で継げる物がありと理解させる役目をセイに与える為の、なかば強姦とも取れるシーンを入れたと思うのです。
セイを犯そうとして漏れた弱音が絞り出すような「生きてくれ」の一言。これだけでセイが役目を理解し、土方を受け入れたと考えられます。
結果として子供が産まれ、誠の武士を伝える為に、セイは生きて行けるのだと納得出来る終わりに出来ます。
でもね、一般読者は作者が思う程、周りのキャラの心情なんて考えちゃいないのよ。だから炎上しちゃったんだと思うの。
ただね、一つ納得いかない事があるの。それはセイの子供の顔が沖田に似ているという事。編集の指示か作者の意図かわ判らないけど解せぬ!
再会した斎藤さんの「沖田さんに瓜二つじゃないか」と言われるんですが、この台詞「沖田さんとの子供か」でよくね? その後の台詞「良く言われます」との繋がりも悪くないのに。
でも、見方によってはセイが悪い女に見られる可能性は上がるか。でも、どっちにしろ、土方との子供って事で、一般読者からの受けは悪いからなぁ。後者の台詞にしといた方が強引にならなくて綺麗に終われると思うな。
既存の作品を書き手として考察してみましたが、本編を読んでいない人にはさっぱり解らないですよね。
実際に実在した人が、どんな想いで生きて死んでいったのか。
漫画は創り物ですが、モデルの多くは実在した人物です。時代背景や生き様を理解出来たら、些末な事で炎上なんて出来ないのではないかと、自分は思います。
渡辺多恵子『風光る』最終巻について 芹沢 忍 @serishino
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