第20話 7月24日(土)
夕方にもなるとデパート内にも人気が薄れてきたのを感じるようになる。
本屋の後は軽くウィンドウショッピングをしたり、地下にあるゲーセンに向かった。ユーフォ―キャッチャーやアーケード機器が多く、子供向けのようなメダルゲームは殆ど置かれていなかった。爆音で耳がやられそうだったので、すぐに出ようとしたのだが、なぜか李衣菜はじっと動かなかったので半ば無理やり連れだしたのだった。
階段を登って地上へと戻る。いい時間と言うこともあり、そろそろ解散しようという事になったのは、自然な流れだった。
「今日はありがとね。楽しかった」
「俺も暇だったし、別にいいって」
「なんかお詫びするつもりだったのに、なんか私に付き合ってもらった感じなかった?」
「それは……否定はしないけど」
「アハハハ、ごめんって!」
午後六時を知らせるチャイムがビル内に流れているのを背に、俺たちは外へ出た。日が落ちてくる頃合いだと言っても、まだまだ暑さを感じられるくらいだ。それでも体に吹いてくる風が心地よかった。雑踏を抜けながら俺たちは駅へと向かって並ぶ。
「今度またよかったらお詫びするからさ」
「別に気にしないでいいって。掘り返すのもアレだけど、あんな風に絡まれたらさっさと逃げる方がいいと思う。てか、俺を呼んでくれ。いつでも駆けつける――とは約束できないけど」
「おおーかっこいい……って思ったけど、最後の一言で台無しだぁ」
「ソリャ残念ダナー」
「ほんとに残念だと思ってる? なーんか棒読みだけど」
「実はそこまで思ってない」
「アハハハハ、やっぱりね」
駅中に入るとやはりまだまだ人ごみで溢れていた。サラリーマンの帰宅ラッシュと時間がかぶったのかもしれない。嫌な偶然だ。スーツ姿の社会人がちらほらと忙しなく歩いていくのが視界に入った。
「あ、ここまででいいよ。私は桜通り線だし」
「そうか。じゃあ俺はあっちだから」
「うん。今日はほんとありがと! よかったらまた……あ」
別れ台詞を言いかけて何かに気づいたのか、李衣菜がカバンを覗き込んで手で探る。そしてスマホを取り出して、俺に差し出した。
「また、連絡とろうね!」
「ああ……まあ」
別に拒否すること必要もなかったので、俺も安易にポケットからスマホを取り出す。ラインを起動して友達追加を開いた。QRコードを読み取ると、ものの数秒で李衣菜のラインが手に入る。便利な機能だ。
「これでよし! いつでもユウくんのこと呼び出せるね!」
「呼び出すのは別にいいけど、俺の方はいつでも行けるってわけじゃないからな」
「わかってるってー。あれでしょ? また変な人たちに絡まれたら呼べばいいんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「絡まれたらユウ君を呼ぶ。そんで警察も呼ぶ」
「そこは順序逆の方がいいかなっ!?」
警察が呼べるなら俺は必要ないじゃないか。俺のツッコミを快活に笑い飛ばす李衣菜につられて、俺も口角があがってしまった。不確定な未来の話をしても仕方ない。そのときはそのときで受け入れるとしよう。
会話にひと段落がついたところで、李衣菜が「電車もうすぐ近いから」と別れを切り出した。さして止めることのほどでもない。なぜかまた会える気がした。
手を振って去って行く様子を最後まで見送ってから俺も自分が乗るべき路線に向かおうとする。SNSを開いてスクロールしながらトレンドを探す。
電車が来るまでもう少し時間があるから、ゆっくり行こうとスマホをいじりながら歩き出してしばらく――
「おわっ!」
「きゃっ……ご、ごめんなさい!」
いきなり柱の陰から飛び出してきた人に正面からぶつかってしまう。持っていたスマホが勢いで自分の鼻に当たってしまい、かなり痛かったのだが、そんなことより相手の方はバランスを崩してその場に倒れてしまった。
「す、すみません! 大丈夫でした!?」
「いえ、あたしの方こそ急いでたので……え」
「……げ」
助け起こすつもりで手を差し伸べたまま、俺は思わず固まってしまった。
「あれ、どうしてこんなところにいるん。ユウ」
「お前こそ、どうして……」
二人してそのまま時が止まる。ぶつかってしまった相手はまさかの唯だった。
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