第14話 7月23日(金)
「な、なんで唯がここに来てんだよ?」
「え? 顧問もいなかったし雨だから早く帰ろーってみんなと別れてきたところだし。というか、ユウの家に行くって言ってたじゃん」
「あ……」
そういえば確かに言ってたな……。
あの時は適当に流したから全然考えてなかった。どうせ普通に来ても部屋には入れないつもりだったのに。
濡れた傘を玄関に立てかけながら、さも当然そうに侵入してくる唯。ってか、この状況! 神と七海が俺の部屋にいるのに、なんで普通に入って来てんだ!
とりあえず小さい女の子もとい神の存在がバレたら厄介だと思って部屋を見渡したのだが、どこにもいなかった。
あいつ、いつの間に消えたんだ。気の利くのかよくわからないが、まあ助かった。
「それでなんで三間さんがユウの部屋でくっついてんの?」
全然助かってなかった! 唯の顔が結構怒ったように見える!
「いや、これは……雅勇くんが」
「ユウにやっぱり何かあったの?」
「えと、別に……それは」
ちらと俺に視線を送る七海。神のことを教えないようにごまかしてくれようとしてるのだろう。それはありがたいのだが……この状況では下手に隠し事をしているようにしか見えない! どうすりゃいいんだよ。
じろじろと怪しむ唯の視線から逃げるように、明後日の方向に首をやる七海。なんだこの現場。
「とにかく! ユウから離れて!」
「べ、別にいいでしょ! 品川さんには関係ないことだし!」
「関係あるもん! あたしはユウの幼馴染だもん!」
「わ、私だって、雅勇くんと家族だし!」
言ってからはっと気づいた表情になる七海。「あ」と口を開けたまま俺の方に首を向けた。その言葉の真意が伝わらなかったのだろうか。
唯は少し戸惑いつつ、俺たちの関係を探ろうとする。
「か、家族ってなに? どういうこと? ちゃんと説明してよ」
「いや、それには深い事情があってだな……」
「いまユウには聞いてない! あたしは三間さんと話をしてるの。早く部屋から出てって!」
「いや、おい、ここは俺の部屋……」
「早く!」
「はい! ごめんなさい!」
なぜか俺を部屋から追い出さんとする唯に背中を押されて、俺は自分の部屋から飛び出したのだった。家主は俺なのに、なんで?
七海とうまくアイコンタクトも取ることもできないまま、部屋に女子二人が籠城した。中からかちゃりとご丁寧に閉められる。
「閉めることないじゃん……」
『お主も不憫な子のよ』
「くそ、だいだいお前の仕業だろ! わざとあんなタイミングで――」
『お主があの二人との関係をきちんとせぬからこうなるのではないか。我はその場を与えたにすぎん。己が意思を操る力などあるわけなかろう。故にこうして話しておるのも彼女らの意思じゃて』
「ちょっとよくわかんない」
『こういう時は鈍いの、お主!』
とりあえず今俺が部屋に戻ったところで出る幕ではないということだろう。七海が隠したかった事、唯が知りたかったこと。そして俺が二人とどう関わっていくのか。
説明しなかったのは確かに悪かったけど、いつでもそれが言葉にできるとは限らない。俺は二人の答えがきちんと出るまで、しばらく玄関に立ったままだった。
**
十分くらい経った頃だろうか。スマホの着信が一つ。七海からだった。
『約束、ごめんね』
簡素な一文がラインに貼られている。それだけで俺は七海がどういう状態なのかが、なんとなくわかってしまった。一つ溜息を吐く。
別に七海に対して呆れなんて感じていない。これは俺がしっかりしなかったせいで、七海にしわ寄せがきてしまっただけだ。だから悪いのは俺だ。
そしてもう一件。
『入ってきていいよ。あと、ごめん』
唯からの許可と謝罪。ちゃんと反省しているのか、涙目の動物のスタンプが送られてきた。はは、俺はどんな顔したらいいんだろうな。
ぽりぽりと頭を掻きながら俺は扉を開けた。神は腕組したままじっと俺の後ろに憑いたままだったが、入るとふっと消えた。部屋に入ると、俯いた表情の二人が床に座っていた。
なんかしんみりとした空気が漂っている。え、なに、喧嘩でもしてたの?
「えと、どういう状況――」
「ユウ……」
「ど、どした、なんで唯が泣いてんの!?」
「だ、だっで、あたし、……あたしユウのこと疑ってた……ぐすっ」
「お、落ち着けって、な? それはいいからもう泣くなって」
泣きだす唯にティッシュを渡しつつ、俺は比較的冷静な七海に視線を送った。
「えっと、私と雅勇くんの関係を説明して……あと、神様のことも。一応」
「あーなるほど。ありがと」
そこらへん一帯を説明して唯が信じたのかどうかはわからないが、こうして泣いてるということは理解したのだろうか。
「なあ唯。その、黙ってごめんな……。義兄弟になったことなんてクラスにみんなに説明なんてできなかったしさ。こういう話ってやっぱ難しいじゃん」
「それはわかってるけど……別にあたしになら教えてくれてもよかったじゃん」
唯は口軽そうだから話さなかった、って言ったら怒るよなぁ。
「その、カミサマ? という奴だって教えてくれたら祠の修理の手伝ったよ?」
「そ、それは……まあ、俺が悪かったよ」
「む……わかればいいよ」
全部話すつもりでいたが、まあ七海との約束まで話す必要はないか。ちょっとだけ拗ねた唯がフンと鼻を鳴らした。
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