第12話 7月23日(金)
雨が降り出さないうちに俺と七海は祠に急いだ。
買ってきたものを買い物袋から取り出して、順番に取り換えていく。思ったより単純な作業だと思ったのだが、朽ちていた柵の代わりをはめるのが難しく、なかなか収まらない。
右を入れれば左が飛び出るし、左を入れれば右が出る。そんな繰り返し。
「サイズ間違えたかなぁ」
「先に計ってなかったの?」
「神はこれが良いって言ったからこれにしたんだけど。まさか、デザインだけで選んだのかあいつ」
「確かにはしゃいでたからよく見てなかったかもね」
飴は勝手に入れるし、サイズは違うし、何をしてるんだよ。とりあえず他の所を先に取り掛かった方がよさそうだ。藁の設置、賽銭入れの取り換え、汚れていた地蔵はクリーナーできれいにすることにした。
「また買い直した方がいいかな。父さんから金借りるか……」
「雅勇くんはバイトしてないんだ? ……あっ」
「バイトってうち禁止じゃん」
俺が言葉を返す前に、自分で気付いたのか七海は声を塞いだ。進学校を自称する三条高校は例外を除いて全面的にバイトを禁止している。一に勉強、二に部活、三四はわからない。
「え、もしかして七海はバイトしてるのか?」
「う、うん」
禁止されているバイトが見つかれば、それなりに怒られると思うんだが、それでも七海はバイトをしているってことなのか? それとも何か事情があってのことなのか。口を滑らせたにしろ、俺がそれを言っていいものなのか。一瞬だけ躊躇してしまったなかで俺は、
「バイトって楽しいのか?」
「う、まあ、楽しいかも」
「そっか。俺も大学入ったらやろうかなー」
敢えてスルーすることにした。
聞かなかったことにするのではなく、深掘りしないことに決めた。
いつどこに誰の地雷が埋まっているかなんてわからない。それを踏んでしまう事だってあるだろう。だからこそ、俺はそれを見つけようとするのではなく、そっと確認して素通りするのだ。無理に解体なんてしなくていい。それが互いにとってのいい選択になるはずだと信じて。
「じゃあ今日はこのへんにしとくか」
「そうだね……あ」
七海に遅れて俺も気づく。今まで溜めていたものが決壊したように、空から雨が降ってきた。ぽつぽつと次第に気配が強くなっていき、あっという間に本格的になってきてしまった。
「くそ、降りそうな気がしてたけど……走るぞ!」
「え、ちょっと、どこに!」
「俺のアパートまでだ!」
せめて傘でも持っていればよかった。不要になった祠の部品を回収して袋に詰め込んだ俺は、空いた片方の手で七海の手を引っ張って走り出した。
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