第11話 7月23日(金)

 誰かと帰宅するなんて久しぶりの感覚を俺は味わっていた。

 何度も言ったように、俺のアパートは学校から徒歩で十分もかからないので走ればすぐに帰宅できる。俺は鞄を部屋に残し、祠に寄ってから行くことにした。

 交換する部品だけ回収して店員に聞くためだ。そして七海と一緒に近くのホームセンターに来ていた。


「素人が直せるのかな」

「んー正直分からん。朽ちてた部分や壊れてた部品の交換でいいと思うんだよな。そこんところどうなんだ?」


 この会話も神様なら聞いてると思い、俺は質問を投げかけてみる。すると、声と共に俺の背中に重みが現れた。


「本物の修理なぞお主に期待しておらんわい。簡易的に見栄えだけ整えてほしいんじゃ」

「ちょ、おまっ、何出てきてんだよ! 誰かに見られたらどうすんだ」

「素人が見てわかるものか。我が実際に見た方がよいじゃろ」

「いや、確かにそうだけど……」

「うわあ。やっぱり本物なんだ」


 いきなり登場した神に対してほとんど驚いた声音のない七海は、神様に触ろうとしてその手をはたかれていた。ほとんど小さな子供に接するみたいに声をかけている。


「また会ったね。名前はなんていうの?」

「名なぞないわい。器に縛られると力が制限されるのじゃ」

「ふうーん。でも、呼ぶときに困らない? 他の神様は名前があって、識別されてるし」

「それはお主ら人の子の都合じゃろう。人間が理解するために名をつけるのであって、我々神にもとの名は持っておらん。名によって体が決まらないように、縛られん神が多数じゃ」

「じゃあ、なんて呼べばいいのかな」

「お主、我の話を聞いておらんな!」


 完全に神様の方が手玉に取られていた。ぷんすかと怒る神は俺の髪の毛をつかんでご立腹だった。


「というか、七海も順応しすぎじゃないか?」

「んー、なんか子供みたいでちょっと可愛いかもって」

「さいで」


 神様が本当に怒らないうちにさっと買い物を済ませないといけないな。俺の髪の毛が死んじゃうよ。

 ホームセンターのコーナーへと急ぎ、それっぽいところをぐるりと回って行く。

 朽ちていた藁と類似するもの、外れかかっていた格子扉の新しい代わり、それから賽銭入れ。神様の指示で順にかごに入れていく。途中で七海がどっかから見つけてきたらしい、クリーニング用の液体ガラスなんてものもあった。


「こんなもんか」

「いいと思う」

「いい買い物をしたの」

「それはレジを済ませてから言ってくれ」


 あれこれと指示してくれた神には助かったが、途中でお菓子まで入れようとした時はほんとに殴ろうかと思ってしまったのは俺の秘密にしておくか。

 神の姿を誰かに見られやしないかと思って内心ドキドキしていたのだが、平日の夕方という事もあってか、そこまで人がいなかったのが幸いだった。

 用が済んだので神に消えるように伝えると、すっと消えてくれた。あれ、もう少しごねるかと思ったんだが。まあ、すんなり消えてくれたのは助かるからいいや。

 買い物を済ませた後は祠に向かうため、そこまでホームセンターで時間をかけていられない。俺と七海は急ぎ足でレジに向かった。

 購入したものがかごに入れられていく。その中に一つ、違和感を覚えたものがあった。棒のついた飴だった。くそ、いつの間に入れたんだよ!


「5817円です」

「た、たけえ……」


 飴一つで値段がそこまで変わるわけじゃないけど、なんかちょっとイラっとした。財布を広げると五千円札が一枚と十円が数枚。……やべ、足りないじゃん。


「足りないなら私が出すよ」

「わ、悪い」


 俺が困っているのがわかったのか、七海は鞄から財布を取り出して千円を俺に手渡してくれた。


「ありがとな。今度ちゃんと返すから」

「いいって別に。その……私ら、家族なんだし」


 照れながらそう言う七海に対して俺はうまく返せなかった。会計を終えた俺たちは店を出た。

 じわっとした空気が全身を這う感覚がする。さっきまでいた店の中はクーラーが効いていただけあってか、余計に外が暑く感じた。

 太陽は分厚い雲で隠されていて、なんだか降りそうな天気だった。

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