第二十章:Change in Management
第二十章:Change in Management
派手に転がり、ガントリークレーンに激突して停止したフェラーリ。
最早超高級スーパーカーというよりも、鉄屑と喩えた方が相応しいほどにボロボロのべこべこになってしまった真っ赤なフェラーリ。廃車同然の格好に大破してしまったフェラーリから、ずるずると血まみれのエディ・フォーサイスが這い出てくる。
あんなひどい転がり方をしたというのに、どうやら無事らしい。血まみれのこの状況を無事とは言いにくいが……とにかく、生きてはいるようだ。
そんな、大破したフェラーリから這い出てくる彼の前に、傷だらけの黄色いC7コルベットが滑り込んでくる。
「こ、このぉ……っ!」
眼前に現れたコルベットに対し、エディは震える手で抜いたP7自動拳銃を向けた。
「――――無駄よ」
だが彼が引鉄を引くよりも早く、運転席からアークライトを向けたレイラが発砲。彼の手からP7を弾き飛ばしてしまう。
カァンっと甲高い音を立ててエディの手から弾け飛んだP7は、何度かアスファルトの地面を跳ねた後、そのまま岸壁の方に滑り……最終的には、海に落ちてしまっていた。
「う、ぐぅ……っ! 私は、私はまだ負けてなどいない……!!」
そうして銃を奪われても、尚もエディは逃げようとした。
よろよろと立ち上がり、千鳥足めいた覚束ない足取りでフラフラと歩くエディ。
そんな彼の両脚を、車を降りたレイラは容赦なく撃ち抜いた。
「ぐぉぉぉ……っ!?」
両脚を三八スーパー弾に撃ち抜かれ、エディは苦しみ悶えながらバタンとうつ伏せに倒れ伏す。
だが、それでもエディは逃げようとした。
動かない両脚を引きずりながら、腕の力だけで無理矢理に這いつくばり。ずるずる、ずるずるとアスファルトの地面を這って、這って……そのまま、岸壁の端までエディは這っていった。
だが、その先にあるのは大海原へと続く海だけ。もうエディに行く場所なんてない。完全に、此処が彼にとっての
「や、やめろ……! 私が悪かった……! 私の負けだ、降参する! だから……だから、撃たないで……」
岸壁の端まで辿り着いたエディは、苦しみながら身体を捩り、仰向けの格好になってレイラたちを見上げる。
そうしながら、必死に命乞いをする彼を見下ろしながら……レイラは憐とともに彼の前に並び立つ。
「た、頼む……! もう私の負けだ、悪かった……! もう二度と君らには干渉しない! だから、だから
命乞いをするエディを、レイラは冷ややかな瞳で見下ろす。
憐もまた、複雑そうな顔で眼下の彼をレイラとともに見下ろしていた。
「終わらせましょう、私と貴方で」
「終わらせよう、レイラ……僕たち二人で」
左手の銃把を握り締め、憐はそっとワルサーPPKを構える。
そんな彼の背中から、レイラもまた憐に覆い被さりながら、銃把を握り締める彼の手にそっと、自分の両手を添える。
三二口径の銃口が睨み付けるのは、仇敵エディ・フォーサイス。運命の歯車を狂わせ、この大騒動を引き起こした元凶たる男。欲にまみれた、リシアンサス・インターナショナルの醜いCEO様。
だが、それも今日までだ。彼は色々と
「やめろ、やめろ……やめろぉぉぉぉ――――っ!!」
涙目になって叫ぶエディの声が響く中――――憐が意を決した瞬間、夜明けの埠頭に乾いた銃声が轟く。
蹴り出された空薬莢が宙を舞い、カランコロンと地面に転がる。
微かな白煙を漂わせるPPKの銃口が睨む先、額を撃ち抜かれたエディ・フォーサイスが力なく倒れ、そのまま背後の海へと落ちていく。
そうして海に転落したエディ・フォーサイスを見つめながら、二人はそっと銃を下ろした。
「……終わりましたね」
父親の形見たるワルサーPPKを握り締めたまま、憐がポツリと呟く中。レイラは背中から彼に覆い被さったまま、彼の身体を強く抱き締めながら「ええ」と頷き返す。
「終わったわ、何もかも」
――――全てが、幕を下ろした。
東の彼方からは太陽が昇り、夜闇に支配されていた世界も、空も、新たな一日の始まりを告げる輝きに照らし出されている。
「…………行きましょう、憐。ここから先は、貴方だけの守護天使でいてあげるから」
そうして、二人は歩き出す。夜明けの朝日に見送られながら、全てが終わりを告げ――――そして、全てが始まる朝焼けを見つめながら。
(第二十章『Change in Management』了)
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