第十九章:Go Hard Or Go Home/03
コルベットとフェラーリ、ボロボロの二台は熾烈なカーチェイスを繰り広げながら、港湾エリアの埠頭へと飛び込んでいった。
海に面した埠頭だ。コンテナヤードがあり、貨物船が横付けする岸壁があり、到着した貨物船からコンテナを下ろすための巨大なガントリークレーンがあり……といった、典型的な貨物埠頭。
このまま海に出れば、やがては太平洋へと行き着く港湾エリアの埠頭。夜明け前の静けさに支配された、誰も居ない埠頭へと二台のスーパーカーは飛び込んでいった。
「くっ……!」
エディのフェラーリが先頭になってフェンスを突き破り、続けてレイラのコルベットも後を追う。
ここに来るまでの熾烈なぶつかり合いで、二台は更にボロボロになっていた。
コルベットの方は右のヘッドライトが割れているし、フロントバンパーも右半分が取れてブラブラと取れかかっている。エディが走行中に繰り出した銃撃を何発かボンネットに喰らってしまったせいで、少しばかりエンジンから煙が吹いているような状況だ。冷却系がやられたのかどうか……定かではないが、いつ動かなくなってもおかしくない。
だが、それはフェラーリの方も同様だった。
さっきからレイラが小突きまくっているせいか、リアバンパーが取れてしまっている。テールライトも左側が割れ、左後輪は微妙に変な方向へと曲がってしまっている。
とにもかくにも、そんなボロボロの二台は尚も熾烈なぶつかり合いを続けながら、この埠頭へと飛び込んでいたのだ。
「場所も悪くない。……こうなったら、やるしかないわね」
コルベットを走らせながらレイラは呟き、そっと右手を屋根に伸ばすと……そのロックを解除。風圧に任せて、頭上の屋根をパネル丸ごと吹き飛ばしてしまった。
――――C7コルベットは、いわゆるタルガトップの車だ。
簡単に言えばオープンカーの一種で、屋根全体ではなく頭上のパネルだけが取り外せる簡素なタイプ。オープンカーとしてはフルオープンの幌屋根に比べると、些か中途半端感が否めないが……これはこれで案外悪くないものだ。
レイラはコルベットがそんなタルガトップであることを知っていたからこそ、敢えて高速走行中に屋根のロックを外し、パネルを彼方へと吹き飛ばしてしまっていたのだ。
「憐、ハンドル頼めるかしら?」
そうして屋根を吹っ飛ばした後、レイラは憐にステアリングを持つように言う。
憐は戸惑いながらも「やってみます……!」と頷き、助手席から身を乗り出してコルベットのステアリングを握り、真っ直ぐ走れるように支えてみる。
そんな風にコルベットの操作を憐に任せながら、レイラは締めていたシートベルトを外し。そうすれば座っていたシートを踏み台にして、屋根を外したコルベットの上から身を乗り出す。
――――この為に、レイラは屋根のパネルを捨てたのだ。
タルガトップの構造を利用し、こうして上から身を乗り出すためにレイラは屋根を解放した。激しいカーチェイスに、この戦いに決着を付ける為に、レイラは敢えて身を乗り出したのだ。
「…………」
そうして身を乗り出した彼女は、激しい向かい風の中、セミショートの青い髪を激しく靡かせながら……そっと、右手を懐に伸ばす。
左脇に吊るしたショルダーホルスター、そこに差さる愛銃アークライト.38を抜き放てば、彼女はスッと右腕を伸ばし、片手でそれを構えた。
バチンと親指でサム・セイフティを下ろし、安全装置を解除。ボーマ―製のフル調整式リアサイト越しに、フロントサイトを。そしてその先に捉えたフェラーリを見つめ……静かに狙いを定める。
こんな状況だというのに、心は自分でも驚くぐらいに静まり返っていた。
静かな水面のような心のまま、明鏡止水の極致に至った心のまま、レイラはそっと狙いを定め――――そして、細い人差し指で引鉄を引く。
「――――これで、チェック・メイトよ!!」
彼女の透き通る声とともに、三八スーパー弾の乾いた銃声が埠頭に木霊した。
レイラの放った三八スーパー弾は、音速を遙かに超えた速度で飛翔し……そのまま彼女の狙い通りの弾道を描けば、見事にフェラーリの左後輪を撃ち抜いていた。
そうすれば、即座にフェラーリの左後輪は弾け飛び、バースト。完全にコントロールを失い、エディのフェラーリは急速に失速してしまう。
コントロール不能に陥り、コマのようにくるくると激しく回りながら、フェラーリは岸壁の方へと滑り……そのまま障害物に片輪を乗り上げ、大きく車体が飛び上がってしまう。
そうして飛び上がったフェラーリは、ひっくり返った格好で地面に落下し……そのまま、ボディをべこべこのボロボロに痛めつけながらゴロゴロと何度も大きく転がれば、最終的に岸壁にあった大きな紅白のガントリークレーンに激突し、その動きを止めていた。
(第十九章『Go Hard Or Go Home』了)
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