第三章:キルボックス・ヒル/07
迫り来る敵の軍勢を退けるべく、レイラが構えたF2000自動ライフルを撃ちまくる。
少しでも時間を稼ぐためだ。そうしてレイラが必死に時間稼ぎをする中……彼女の隣では、憐がノートPCのキーボードを忙しなく叩き続けていた。
「まだなの!?」
「あと少し……! あと少しだけ、耐えてくださいっ!!」
「……分かった、貴方を信じるわ!」
焦るレイラが叫び、それに憐が叫び返し。レイラはそれに小さく頷き返すと、彼を信じて踏みとどまる。
けたたましい銃声が止むことなく木霊し、F2000の先端から……このライフル特有の、金魚の糞みたいなだらしのない落ち方で空薬莢がポロポロと落ち続ける中。憐はそれらに構うことなく、全力で目の前のクラッキング作業に集中する。
「もうちょっと……!」
「っ……!!」
憐がキーボードを叩く中、レイラは残っていたもうひとつの手榴弾、ここぞという時の為に残しておいた虎の子の一発をオフィスの入り口に向かって投げつける。
バンッと手榴弾が爆ぜる音と振動が響けば、レイラはその隙に弾倉を交換。再びF2000を構えると、連射のし過ぎで銃身から煙が吹いているのにも構うことなく、再び撃ちまくる。
敵の数は――流石に大分減ってきていた。連中も人質の管理などがあるから、こちらが思うよりは数を割けないのだろう。
それに、レイラがここまで手練れだというのも……恐らくだが、敵にとっては誤算なのだ。故に連中はその戦力を、どちらかといえば逐次投入気味にこちらへと差し向けていた。
だが、それでもこの場で粘るのはそろそろ限界だ。いい加減に敵の目を潰さなくては、こちらに勝機はない……!
「いい子だ……! よし、これでチェック・メイトっ!!」
そうしてレイラが必死に時間を稼ぐ中、憐は叫び。最後にエンターキーをタンっと強く叩く。
「出来ました!」
すると次に彼の口から飛び出してきたのは、そんな最高の吉報だった。
「監視システムは全部潰しておきました、もう僕らの位置は分からないはずです。今なら……脱出できるはずです!」
「やるわね」
素直な気持ちで褒めながら、レイラは傍らの彼の頭をそっと撫でてやる。
そうすれば憐は「あっ……」と頬を赤くして、何処か嬉しそうな顔を浮かべていたのだが。しかしすぐさま射撃に戻ったレイラはそのことに気が付いていなかった。
「これで……こっちも、ラストかしら」
続けざまに撃ちまくり、狙い定めた最後の標的。サッとF2000の銃口を向ければ、レイラは一切の迷いなく引鉄を絞る。
オフィスに乾いた銃声が轟き、空薬莢がまたひとつ蹴り出され。そうすればレイラが右眼で狙い定めるスコープの中、最後の一人がバタンと倒れていた。
「ふぅ……っ」
小さく息をつき、しゃがみ込むレイラ。
丁度最後の一発を撃ったF2000から空弾倉を抜くと、ジャケットのポケットから予備弾倉を……ラスト一個を取り出し、それを装填。チャージング・ハンドルを鋭く引き、初弾を装填する。
「さあ、行きましょう」
そうして最後の弾倉を叩き込めば、レイラは立ち上がり、憐にそっと手を差し伸べる。
「はいっ!」
それに憐は笑顔で頷き、彼女の手を取って立ち上がった。
二人で歩き出し、ひとまずの静寂を取り戻したオフィスから脱出しようとする。
「う、ぐ……」
だが――――オフィスのデスクの陰に隠れるようにして、最後の伏兵が息をひそめていた。
レイラが撃ち損じた奴だ。命中こそしたが、偶然にも致命傷を免れた奴が一人、虫の息になりながらも未だ潜伏していたのだ。
既に左腕は動かないし、視界も意識も虚ろ。しかしその兵士は自分を追い詰め、そして仲間たちを残らず殺し尽くしたレイラに一矢報いるべく、震える右手で自動拳銃を――ベレッタ・92FSの自動拳銃を握り締め、彼女が近づいてくるのを待ち構えていた。
(……一人、まだ息がある奴が居るわね)
当然、その気配を察知できないレイラではない。
常人ならここで奇襲を喰らうところだが、人並外れた……もはや人外レベルと言っていいほどの鋭敏な気配察知能力を有した彼女だ。この程度の逆襲を喰らうほど、レイラ・フェアフィールドは甘くない。
奴がこのまま何もしないならそれで良し、見逃してやろう。だが、何か余計なことをするようであれば――――。
そう思っていたレイラは、敢えて未だ気付いていないと見せかけて、そのまま兵士の真横を素通りし。奴が何か妙な動きを見せ次第、振り向きざまの銃撃で仕留めようとしていたのだ。
「こ、の……ッ!!」
何もしなければ、見逃して貰えるはずだった。
だがそんなことを彼が知るはずもなく、その兵士はレイラが真横を過ぎ去ったのを見ると、震える手でベレッタの銃口を彼女に向ける。
(――――馬鹿な子)
それに対し、レイラはバッと振り返り。構えたF2000で始末してやろうとしたのだが――――。
「――――レイラ、危ないっ!!」
しかし、彼女が振り向くよりも一瞬早く。響き渡ったそんな憐の叫び声とともに――――オフィスに一発の銃声が木霊した。
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