第二章:気になる彼女と、近づく互いの心と/03

 待ち合わせ場所の公園で合流し、二人揃って歩き出した後。レイラたちは最寄りの駅から私鉄電車に乗り込んでいた。

 休日の、それもこんな中途半端な時間だからだろうか、車内はかなり空いている。そんなガラガラの私鉄電車の中、憐とレイラは隣り合って座席に腰掛けていた。

(……あんなこと言って、僕をどうするつもりなんだろう)

 レイラのすぐ真横で電車に揺られながら、憐は高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、内心でそんなことを考えていた。

(ひょっとして、僕のことを……?)

 一瞬そう思ってしまったが、しかしすぐに憐は「いやいやいや……」と首を横に振って否定する。

(まだ会って二週間ちょっとだし、それは無いよ……うん、無い無い。そんな、僕じゃあるまいし……)

 そんなことを、すぐ隣で考える憐が独り悶々としている中――――レイラもまた、内心で自分自身に首を傾げていた。

 ――――どうして、休日に彼を連れ出したりなんかしたのか。

 今日こんな行動に出た理由は、実を言うとレイラ自身もまるで分かっていなかった。

 護衛という観点から見れば、確かに一緒に行動するのは良いことだ。だが……こんなこと、明らかに必要のないことだ。

 必要のない外出に、必要のない行動。これは明らかに自分らしくない。とてもじゃないが、合理的な判断とは思えない。

 ただ――――レイラは分からないなりに、ひとつだけハッキリした動機は持っていた。

(…………ただ、彼のことをもっと知りたくなった。それだけは……私にも、分かるわ)

 強いて理由を挙げるとすれば、そんなところだ。

 この二週間の間、レイラは久城憐と接している内に……いつからだろうか。彼に対して、そんな感情を抱き始めていたのだ。

 どうしてこんなことを思ってしまうのか、その理由もまた今日の行動と同じく、レイラ自身も全く分からない。

 ただ……知りたいのだ。レイラにとって唯一無二の存在だった男、掛け替えのない存在だった師匠……秋月恭弥の息子である彼のことを。

 そんな複雑な事情を抜きにしても、レイラは久城憐という彼のことを、より深くまで知りたくてたまらなくなっていた。

 ――――深入りしすぎだ、と思いはする。

 自戒もする。これは明らかに行き過ぎた行為だ。護衛対象に深入りしすぎるなんて、こんなの……これではスイーパー失格だ。

 だが――――それでも。

「えっと……レイラ?」

「……何かしら」

「その、えっと……今日は、誘ってくれてありがとう」

「………………喜んで貰えたのなら、何よりだわ」

 彼にレイラ、と名前を呼んでもらうのは、何処か懐かしく。そして――――奇妙なまでに、心地良かった。

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