第二章:気になる彼女と、近づく互いの心と/02

 そんなこんなで、翌日の午前十時頃。土曜日の今日、休日のこの日……久城憐は待ち合わせ場所の公園、噴水前の広場でじっと誰かを待ち望んでいた。

 憐の格好は平日だった昨日までとは打って変わって、黒のTシャツと紺色のパーカー、下はジーンズといった私服姿。そんな格好で憐は、何やら落ち着かない様子で誰かをずっと待っていた。

「――――憐」

「はっ、はいっ!」

 そんな彼は何処からか聴き慣れた声に呼びかけられ、緊張のあまり思わず声を上擦らせながらバッと振り返る。

 振り返った先、彼の前に立っていたのは――他でもない彼女、レイラ・フェアフィールドだった。

「待たせたかしら?」

 普段通りのクールな調子で言う彼女に「い、いえっ!」と、憐はまたも声を上擦らせながら返す。

 そんな憐の前に現れたレイラは、彼と同様に私服姿だった。

 普段の彼女のトレードマークじみた格好だ。白のキャミソールに、肘下で袖を折った黒いジャケットを上から羽織り。下はデニム地のショートパンツに黒のニーハイソックスと、焦げ茶のハイカットブーツ。左手首にはロレックス・サブマリーナの腕時計といった感じ。

 レイラがそんな格好で――――学院で見るスーツ姿とはまた違った印象の格好で現れたものだから、見とれてしまった憐は思わずこんな初心うぶな反応をしてしまった、というワケだ。

「じゃあ、行きましょうか」

 憐のそんな反応にレイラは微かに笑むと、彼を連れて歩き出す。

 先を歩くレイラの後を慌てて追いかけながら、憐は――そういえば、肝心の何処へ行くのかを聞いていなかった彼は「えっと、今日は何処へ?」と今更な質問をレイラに投げかけた。

 すると、レイラは「色々よ」といつも通りの調子で、ある意味で素っ気なくも聞こえる調子で返す。

「でも、フェアフィールド先生……」

「――――レイラ」

「えっ?」

「今は私をそう呼びなさい。呼び捨てで構わないから」

「でっ、でも……」

 突然言われても、どうしたら良いのか分からない。

 今日は休日といえ、一応この二人の関係は教師と生徒だ。言ってしまえば目上と目下の関係、そんな間柄で突然名前で呼べと、しかも呼び捨てで構わないと言われてしまえば……優等生な憐としては、戸惑うことしか出来ない。

 レイラはそんな彼の遠慮がちな反応から察すれば、次にこんなことを彼に言う。

「今日は教師と生徒の関係じゃない、あくまでプライベートよ。今ぐらいはそうやって呼んで欲しいわ。それとも……嫌だったかしら?」

 ――――ある意味、ズルい言い方だ。

 とはいえ、そんな言い方をされてしまうと、イエスと首を縦に振らない選択肢は消えるのが必定。

 故に憐は「いっ、いえっ!」と首を横に振った後、

「じゃ、じゃあ……レイラ、さん」

 と、緊張した面持ちで、恐る恐る彼女の名を呼んでみた。

「さんは要らない。貴方と私、別に大して歳も離れているワケじゃないもの」

「えっと……じゃあ、その、レイラ?」

「何かしら、憐?」

「これから僕を……何処に、連れて行くんですか?」

 恐る恐る彼女の名を呼びながら、もう一度同じ質問を投げかける憐。

 レイラはそんな彼の隣を歩きながら、横目の視線でそっと彼を見下ろし……小さく微笑みながら、こんな答えを返していた。

「そうね……言うなれば、気晴らしのお散歩といったところかしら」

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