第一章:今日から私が貴方の守護天使/09

 屋上のベンチに腰掛け、もぐもぐと菓子パンを頬張るレイラ。

 そんな彼女の、とんでもない先客の姿を目の当たりにして、憐は唖然としていた。

「えっと……どうして此処に?」

 戸惑いながらも、憐の口からはひとまず疑問の言葉が飛び出してくる。

「屋上って、確か立ち入り禁止ですよね……?」

 そんな彼の疑問に対し、レイラは「鍵を借りてきたの」と答え、

「誰も使っていなかったようだし、お昼休みの間ぐらい、鍵が消えていたって誰も気づかないでしょう?」

 と――――教師にあるまじきことを、さも当然のように口にしてみせた。

「それに……貴方がそれを言える立場かしら?」

「うっ……」

 続くレイラの鋭い指摘に、憐はバツが悪そうな顔をして思わず目を逸らす。

「私が鍵を開けていなかったら、どうやって此処に入るつもりだったの? ピッキングが出来るタイプとは思えないし……そうね、こっそり作っておいた合鍵といったところかしら」

「うぅ……っ」

 びっくりするぐらいの図星だった。

 完全に見透かされてしまい、返す言葉もなく。目を逸らしたまま憐はたじろぐ。

 そんな彼の様子を見つめながら、レイラはフッと僅かに表情を緩め。「まあいいわ」と言うと、こっちに来なさいと彼を手招きした。

「えっ?」

「貴方もお昼、食べに来たんでしょう。だったら遠慮は不要よ。別に誰かに言いつけたりはしないわ。どのみち、貴方も私も同罪なんだから。共犯者のよしみよ、折角なら一緒にどうかしら?」

 儚さを漂わせるほどに、薄く微笑むレイラ。

 そんな彼女の提案は、確かに憐にとっても魅力的で。初対面から目も心も奪われた彼としては、この提案を断る理由もなく。とすれば、次に彼の口から出てきたのは――――。

「じゃ……じゃあ、その、お邪魔します」

 照れくさそうにしながらの、そんな了承の言葉だった。

 とぼとぼとベンチまで歩き、レイラの隣に腰掛ける憐。顔を真っ赤にして緊張しつつ、憐はひとまず持参した包みを開き……自分の弁当を食べ始める。

 二人で並んで屋上のベンチに腰掛けながら、暫くの間、レイラも憐もそのまま無言で黙々と昼食を食べ続けていた。

 そうして黙ったままの時間が、どれだけ続いただろうか。ふとした折にレイラはこんなことを憐に問いかける。

「貴方、名前は?」

「僕の名前……ですか?」

 ええ、とレイラは小さく頷き返し、

「貴方、確か私のクラスの子よね。こうして妙なところで出くわしたのも何かの縁、名前ぐらいは知っておきたいわ」

「えっと…憐です、久城くじょうれん

 照れくさそうに、何処か恥ずかしそうに名乗る憐に、レイラは「そう」とまた小さく頷き返し。そうすれば自分もまた彼にこう名乗り返した。

「当然知っているでしょうけれど、私はレイラ・フェアフィールド。今日から貴方の担任よ。だから……よろしく、憐」

「はっ、はいっ! よろしくお願いします……えっと、フェアフィールド先生」

 頬を真っ赤に染め上げて、忙しなく目を泳がせながら言う憐。

 そんな彼の姿を、レイラは冷たい瞳で眺めていた。横目の視線を流す、切れ長の……満月のようなゴールドの瞳で。

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