第一章:今日から私が貴方の守護天使/08

 そんなこんなで昼休みの時間が訪れると、憐は席を立ち。一緒に昼にしようと誘ってくるクラスメイトたちを上手い具合に振り切れば、廊下に出て階段を昇り……いつものように校舎の屋上へと向かっていた。

 この私立八城学院の屋上も、他の例に漏れず平時は生徒の立ち入りが禁止されている場所だ。

 当然、施錠されているから無断で忍び入ることも出来ない。出来ないのだが……憐はこの場所がどうしようもなく好きだった。屋上の静寂と、吹き込む柔な風。クラスメイトたちの無粋な喧騒からひとときでも解放される、あの空間が好きで好きで仕方なかった。

「……さて、と」

 だから、憐は昼休みにはどうしても屋上に行きたい。少しの間だけでも、一人になりたかったのだ。

 故に――彼は本来進入禁止である場所に立ち入るべく、ある策を用意していた。

「周囲確認は……よし、誰も居ない」

 憐は周囲に誰も居ないことを確認してから、羽織る制服ブレザージャケットのポケットよりそっと、小さな鍵を取り出す。

 合鍵だ。屋上に続く扉の施錠を突破するべく、こっそり作っておいた合鍵。まさかこんなところを誰かに見られるワケにもいかないだろう。大問題に発展するのは目に見えている。

 だからこそ憐は面倒事を避けるべく、ヒトの目がないことを確認してから……その合鍵を、目の前のドアに差し込む。

「…………あれ?」

 だが、今日はなんだか様子が違った。

 ドアノブの鍵穴に合鍵を突っ込み、捻ってみても手ごたえが無いのだ。ドアは既に、憐が合鍵を差し込むより前に開錠されてしまっている。

 今日に限って、何故か施錠されていない屋上のドア。それを憐は不審に思い、どういうことだろうと首を傾げた。

(もしかして僕、昨日鍵を閉め忘れた……?)

 あり得る話だ、と憐は思う。

 普段から施錠されっ放しの扉だ。終業後に戸締りを見回る教師も、まさかこんなところまで中々見ないだろうし、可能性としては十分にあり得る。

 ひとまず憐は自己解決して納得すると、とりあえず扉を開けて屋上へと足を踏み入れていく。

 すると――――――。

「……フェアフィールド、先生?」

「――――あら、奇遇ね」

 屋上には既に先客が居て。それは……何故か彼女、レイラ・フェアフィールドだった。

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