第一章:今日から私が貴方の守護天使/01

 第一章:今日から私が貴方の守護天使



 郊外にある真っ白い一軒家、隣に広いガレージが併設されたその家の一階。リビングルームのソファに横たわって眠っていたレイラ・フェアフィールドの意識を現実に引き戻したのは、あまりに無粋な着信音だった。

「……何よ、こんな時に」

 すぐ傍にあるテーブルに置いていた、自前のスマートフォン。未だにけたたましい着信音が鳴り続け、バイブレーション機能でブルブルと震え続けるそれを、目覚めたレイラは至極面倒そうに手繰り寄せる。

 見てみると……着信相手は馴染みの相手だった。

「こんな時間に、何の用かしら」

『あのなあレイラ……もう二時だぜ? こんな時間って言い草はねえだろうがよ』

 気怠げに電話に出たレイラの左耳、押し当てたスマートフォンのスピーカーから聞こえるのは、しゃがれた男の呆れ返った声だった。

 ――――鏑木かぶらぎ孝也たかや

 それが、電話を掛けてきた相手の正体だ。

 定年も間近に控えた刑事の男で、レイラとは昔馴染みの間柄。家族のような関係とは少し違うが、まあ親友と言っても差し支えないだろう。

「昨日は遅かったのよ。貴方も知っているでしょう?」

『あー、確かアイツの……マリアからの依頼だったっけか?』

 とぼける鏑木に「そうよ」とレイラは電話越しに頷いて肯定の意を返す。

『なるほどなあ、アイツも大変だよなあ。元CIAエージェントっつっても、まさかあんなデカい連中とやり合う羽目になるなんざな』

「厳密にはもう終わった後で、私が請けた依頼は後始末のひとつよ。エインズワース財団の件、貴方も覚えているでしょう?」

 レイラの言葉に、鏑木は『まあな』と頷き返す。

 ――――レイラが請けた、昨晩の依頼。

 工事現場からスナイパーライフルで撃ち抜いた、あの四二五〇メートルの超長距離狙撃の件だ。レイラはその依頼を古い同業者の知人から請けて、昨日の深夜にそれを実行した。だからこそつい先刻まで寝息を立てていて、そして今まさに彼女が寝不足気味な声で応答している理由だった。

「……で、用件は何?」

 そんな世間話じみたやり取りを経た後、レイラは自分の方から本題を切り出す。

 すると鏑木はそれに対し『仕事だよ、仕事』と言った。

『それも、かなりデカいヤマだ。詳しくは電話じゃあ話しにくいことなんでな、一時間後にいつもの場所に迎えに来てくれや』

 にひひ、と小さく笑いながら、さも当然のように言う鏑木。

 レイラは小さな溜息をつきながら、鏑木の言葉に「……分かったわ」と諦め半分な調子で頷いた。

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