第6話・毒
次の日、これまで使っていた兵舎は今後、帝国軍が利用するというので、私とエーベルが使っていた士官用の部屋も、別の一般兵たちの兵舎に残っていた者達も立ち退いた。
傭兵部隊に参加する者は城内の大部屋に移動となった。傭兵部隊はルツコイに集めるように言われている総勢二百名に少し足りない程度だが、今後、彼らが使うことになる大部屋は手狭な感じとなる。しかし、我慢するほかないようだ。ルツコイの命令で、隊長である私と副隊長であるエーベルは個室に、女性隊員五名のためには別部屋をいくつか用意された。
また帝国軍では、街の中に点在する詰所も活用することにしたという。街中で監視のために兵士を立たせているが、詰所が待機や休憩の場所として使えるということだ。
武器庫に出入りする許可が出たので自分の物を見に行った。私が使う武器は少し短めの剣と投げナイフを使う。ナイフは常に三本持っている。投げナイフを持つ騎士は少ないので、意表を付いた攻撃が可能だ。先日に反乱騒ぎの際、クラウス・ルーデルを倒した際もそれを利用した。
以前、私はナイフにはいつも猛毒が塗っていた。共和国軍が武装解除された際、毒の瓶は医療室に置いた。反乱騒動の時は医療室に行く暇がなかったので、ナイフには毒は塗っていなかった。
私はその毒を今後もまた使いたいと思い、医療室に向かった。
医療室にはザービンコワと他の医師や看護師たちがいつもの様にいた。反乱騒ぎの負傷者は少なくなっていた。少々落ち着いたようだ。
「あら、今日は何の用? もう火傷はいいんでしょ?」
部屋に入ってきた私に気が付いたザービンコワは声を掛けてきた。
「おかげさまで、火傷はもう大丈夫です。今日は、私の私物だった毒を取りにきました」。
「毒?」
「そうです。“クラーレ”という毒です」。
「ああ、珍しい薬品なので覚えているわ。棚の整理をしていたら瓶を見つけたので、その棚の一番上の一番端に置いたわ」。
ザービンコワはそうって棚を指さした。私は棚からその瓶を取り出して見た。確かに私の物だ。しかし、当然それを知らないザービンコワは質問してきた。
「これ、あなたの私物って本当?」
「そうです」。
「でも、それを証明してもらわないといけないわ。基本的に、ここにある薬は持ち出し禁止なのよ」。
困った。別に瓶に名前が書いてあるわけではない。少々高価な物なのだが、諦めるか。
「これを先生は、どう使うおつもりですか?」
「麻酔につかえるから、機会があれば使うわ」。
「そうですか」。
ザービンコワは忙しそうなので邪魔にならないように私は一言だけ言って医療室を出た。
仕方ないので、新たに毒を入手しようと考えた。
この毒の調達は、港の商人から購入することができる。
自分の部屋の整理もあるが、先に港へ毒の購入に行くことにしよう。
私はルツコイに事情を話し、城を出る許可を得た。そして、馬を駆って港に向かった。
先日、ルツコイは人々の経済活動は一部を除いて制限しないと通知を出したので、街は徐々に活気を取り戻しているようだ。数日前までは街中には人がほとんどいなかったが、今は少し人が出てきたようだ。
しかし、通りの主だった辻には帝国軍の監視が相変わらず数名ずつ立っている。
私は港に到着した。反乱の時は誰も見かけなかったが、今は多くの人が働いており、以前のような活気に溢れている。
ここの近くに毒のクラーレを売っている顔なじみの薬商人の店がある。
店にたどり着き扉を開けると、店主のコルシュは、すぐ先に私に気が付いて声を掛けてきた。
「クリーガーさん」。
「こんにちは」。
私は挨拶をした。
「軍が解体されたと聞いたから、あなたにはもう会えないと思っていました」。
「実は帝国軍が傭兵部隊を設立して、それに参加することになりました」。
「傭兵部隊?どういうことをするのですか?」
「今後も戦前のような治安維持などの仕事をします」。
「それにしても、また来ていただけるとは嬉しいです。じゃあ、今後も薬を買ってもらえるということですかね」。
「そうなります」。
「それで、いつものやつですか?」
彼はクラーレの瓶を棚から取り出した。
「ええ。ありがとう」。
私は金を払って瓶を受け取った。
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