第4話・面談1
三日後、第六番詰所での傭兵部隊の応募が終了した。
その間に、ルツコイによってズーデハーフェンシュタットの市長と副市長が任命された。
市長には先日まで暫定的に首相をやっていたヴェルナー・テールマン、副市長には旧貴族の富豪一族であるユストゥス・ヴェールテを任命した。
帝国の人間を任命するかと思っていたので予想外であった。後にルツコイにこのことを聞くと、これは懐柔策の一環だそうだ。当面ここでは、帝国は行政の表側には立たないという方針でやっていくらしい。当然、裏側の実権は、しっかり帝国が握っている。
傭兵部隊員の締め切り日の次の日から、二日がかりで応募者の面談を城内で行うこととなった。応募人数は三十名ばかり。最初、応募者は賞金稼ぎばかりかと思っていたが、たまたま掲示板を見た者で賞金稼ぎ以外の応募者も数名居たので、その者達も面談を行う。
ルツコイの指示で、私もその面談に付き合うことになった。
面談を始めて何人目かに、酒場で話をしてきた大男がやって来た。
あの時、私を“裏切り者”と呼んだのに来たのかと思ったが、気にしていないふりをした。男は椅子に座る。
「レオン・ホフマンだ。十年近く賞金稼ぎをやっていた」。
ルツコイが話を切り出す。
「ここには、直近の仕事の資料しかないのだが、これまでの一番大きな仕事を話してくれ」。
「犯罪組織の“シュバルツ・スピネ”を壊滅させる案件だ。これは仲間と一緒に一年以上掛かって終わらせた」。
「知っているか?」
ルツコイが私に話しかけた。
私は説明をする。
「聞いたことがあります。三、四年ほど前まで、 “シュバルツ・スピネ” は麻薬取引や禁制品の密輸などをやっていた犯罪組織です。政府の内部まで犯罪組織の仲間が入り込んでいて、警察が手を出せずにいたため、軍が秘密裏に出した案件です」。
これは結構な額の報奨金が出ていたと思う。これに関わっていたのか。
「我々の仲間を潜入させたり、政府の要人を見張ったり、なかなか楽しい案件だったね」。
「そうか」。
ルツコイは資料に目を落としながら言う。
「酒場でも言ったが、傭兵部隊は様々な仕事があるが、賞金稼ぎの頃のようにやりたくない仕事はしない、ということできないぞ」。
「問題ない」。
「そうか、では採用の可否は第六番詰所の掲示板に張り出すから。二、三日待ってくれ」。
ホフマンは部屋を出た。彼が部屋を出たのを見てルツコイが話しかけてきた。
「どう思う?」
「“シュバルツ・スピネ”の案件で、そのリーダーをやっていたようなので、出来る人物だと思います」。
「なるほど、採用だな」。
「異論ありません」。
そして、その後も数十人の元賞金稼ぎの面談をした。次は賞金稼ぎでない者の面談だ。あらかじめ本人に書かせておいたプロフィールを確認しておく。
入ってきたのは、長身で金髪の碧眼の男性。
「オットー・クラクスと言います。よろしくお願いします」。
早速ルツコイが質問をする。
「座りたまえ」。
「はい」。
「君は義勇兵だったのか?」
「モルデンで義勇兵として参加しておりました」。
「あの戦いはかなり激しいものだった。よく生き延びたな」。
「戦闘の合間をぬって、夜間になんとか脱出しました」。
「そうか」。
モルデン攻防戦の激しさは知れ渡っている。凄惨な戦いで街がほとんど破壊され焼け野原となり、戦いの後も帝国軍による略奪が横行して荒廃したという。故郷が破壊された彼は帝国軍に対して恨みは無いのだろうか?
「賞金稼ぎでもない君が、何故あの掲示板を見た?」
「こちらに来てからは港で日銭を稼いでおりました。近く賞金稼ぎになろうと思っていましたので、しばらく、“ヒンメル”の宿屋で寝泊まりしていました。しかし、武器所有禁止令が出て賞金稼ぎになる道は断たれて途方に暮れていたところ、詰所に傭兵部隊の募集があると耳にしましたので、それで応募を」。
「何故、傭兵部隊に入隊希望している?」。
オットーは私をチラリを見て言った。
「詰所に寄ったところ、“深蒼の騎士”がおりましたので、ぜひ一緒に働きたいと思いました」。
「ああ、クリーガー君のことか」。
ルツコイも私をチラリと見た。
「彼は、傭兵部隊の隊長をやっている」。
次は私が質問をした
「義勇兵としてはどのような戦いをしましたか?」
「城壁を越えてきた帝国軍を攻撃していました。しかし、義勇兵は、言ってみれば素人の集まりで装備も貧弱でした。ですので、犠牲者は多かったです。自分もあの時、初めて剣を持ったような状態でした」。
「そうでしたか」。
「部隊に入れば、剣を教えてもらえるのでしょうか?」
オットーは前のめりになって質問をしてきた。
「もちろん」。私は答えた。
「是非、お願いします!“深蒼の騎士”のようになりたいと思っています!」。
オットーは、やや興奮気味に声を上げた。
「入隊の可否は後日、詰所の掲示板に掲載する」。
ルツコイは、はやるオットーをたしなめるように言う。
「わかりました」。
ルツコイの口調で、オットーは少々落ち着きを取り戻したようだ。
オットーは部屋を出た。
「どう思う?剣も素人だろう」。
「そうですね。しかし、やる気はありそうです」。
「君が教えることができるのであれば、私は構わない」。
「では、採用で」。
「いいだろう」。
詰所での応募者を合計しても予定の二百名に少々足りない。だから、よほど向いてなさそうな者以外は採用したいと考えていた。
“深蒼の騎士”は子弟制度で剣や魔術の伝承をしている。私自身も師に教えられるまで剣術はまったくの素人だった。
私はこれま弟子を取ったことが無かったが、素人でもある程度のレベルまで技術を高めることができる自信があった。
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