第3話・賞金稼ぎ達
面談から、さらに二日後、私は再びルツコイに呼び出された。
彼の執務室に入り、敬礼した。
ルツコイは早速、用件を話し始めた。
「クリーガー君。君を傭兵部隊への所属と部隊長への就任をお願いしたい。どうか?」
「ありがとうございます。拝命いたします」。
「よろしい。私は君の直属の上官となる。改めて言うが、私がここズーデハーフェンシュタットでのことはすべて任されているので、私の命令は皇帝陛下の命令だと思ってくれ」。
「わかりました」。
彼は私の返事を聞いて満足そうに背もたれに体重をかけた。
「後は、明日までに採用を対象者全員に通知し、明後日、全員を集めて今後のことを話す。先ほど話した武器所有禁止令はすでに施行されており、取り締まりは軍によって既に始まっている。おそらく君らにやってもらう一番初めの仕事はこの件で、我が軍と協力してやってもらうことになるだろう。詳細は後日話す」。
「わかりました」。
「採用を決定した傭兵部隊は全員で百五十名ばかりになる。今のところ、全て元共和国軍の者だが、少々人員が足りないと感じている。あと五十名は人員を募集したいと思っているが、何か良い案はあるか?」
「そうですね…」。私は少し考えてから答えた。「一般から応募するのはどうでしょうか? 今後、武器所有禁止令が施行されると考えると、賞金稼ぎなどが活動できなくなります。彼らは盗賊退治などで生計を立てておりましたが、それが難しいとなると、同様な活動を行う傭兵部隊へ加入を希望するものも多いと想像します」。
「なるほど、賞金稼ぎか。帝国にはそういう者が居ないので盲点だったな」。
ルツコイは顎を触りながら話を続ける。
「このような助言は助かる。今後も遠慮なく意見を出してくれ」。
「わかりました」。
「その賞金稼ぎが居るところはどこだ?さっそく募集を掛けたいのだが」。
「街中に軍の第六番詰所というところがあります。そこで、賞金のかかった案件の情報を出していました。その近くの酒場兼宿屋があるのですが、そこに行けば賞金稼ぎが多数出入りしているようです」。
「なるほど。では、早速だが行ってみたい。そこまで道案内をお願いできないか?」。
「わかりました」。
我々は出発の準備をした。
ルツコイと数名の帝国軍兵士は馬を駆って城を出た。私もそれに続く。
主だった通りの辻に帝国軍の兵士が二、三人ずつ立っている。どうやら、街の中を監視しているようだ。しかし、通りに住民の姿はほとんどいない。
城から馬で二十分ほど行ったところに目的の第六番詰所がある。我々は馬から降り詰所の扉を開けた。中には誰もいない。
軍が解体されてから、ここは放置されたようだ。
しかし、鍵もかけていないとは不用心だ。もう、ここの資料は必要ないということなのか。賞金稼ぎは、いわゆる、荒くれ者が多いので、このあたりの治安は良くなかったが、帝国軍を恐れてだろうか、賞金稼ぎの者達も通りで姿を見かけなかった。
ルツコイは中の様子を見て言った。
「ここはだれも居ないのだな」。
「軍が解体されてから、放置されたのでしょう」。
「賞金稼ぎが居ることも、こういうところがあることも聞かなかった」。
共和国軍から帝国軍への引継ぎがうまくされていないのだろう。おそらく、旧共和国軍の者は、もうどうでもいいと思ったのだろう。無理もないが。
私は部屋の奥に入り中で資料を探し始めた。それを見てルツコイが話しかける。
「何をしている?」
「賞金のかかった案件と、それを受けた賞金稼ぎのリストがあるはずです。それを見れば賞金稼ぎ達の働きぶりが確認できると思います」。
「なるほど」。
そう返事をするもルツコイ達は特に何もせず、中をうろうろしている。
しばらくして、私は目的の資料の束を見つけ出した。
「ありました。これで賞金稼ぎの応募があった際、採用可否の資料として参照できるでしょう」。
私はルツコイの資料を手渡した。ルツコイはそれを受け取ると何枚かめくって読んだ。
「なるほど、参考になるな。ありがとう、助かるよ」。
「後は、外の掲示板に傭兵部隊の隊員募集の張り紙を掲載すれば、応募があるでしょう。ここの詰所に何名か待機させてその対応をさせればよいと思います」。
ルツコイは少し考えて、私に言う。
「それを君にお願いできるか? 手伝いは付ける」。
「わかりました」。
「後は、賞金稼ぎが集まる酒場があると言ったね。そこへも案内してくれないか」。
「わかりました。この近くなので、ご案内します」。
我々は徒歩でその酒場に向かう。
目的の酒場は宿屋と一緒になっており、賞金稼ぎ達がよく利用している。
酒場の名前は“ヒンメル”。“天国”という意味だ。
我々一行は酒場の扉を開けた。
中には賞金稼ぎらしい風貌の者達が数多くいた。一斉にこちらをにらみつける。帝国軍の者が入ってきたのを見て、酒場内が少しざわついた。
ルツコイが間髪入れず話し出す。
「私は帝国のズーデハーフェンシュタット駐留軍の司令官ボリス・ルツコイだ。知っての通り、既に、この街は我々の支配下となっている」。
ルツコイは鋭い目つきであたりをにらみつける。
「今、我が軍では傭兵を募っている。君らの中で興味のある者は、第六番詰所まで来てほしい」。
少し間をおいて、ある男が声を掛けた。
「質問していいかい?」
体格のしっかりした大柄な男が立ち上がった。長めの黒髪を後ろで束ねている。顔に複数傷跡があるのが見えた。
「何だね?」
「今後、賞金稼ぎの仕事はあるのかい?」
「いや、ない」。ルツコイはきっぱりと言った。「武器所有禁止令が出たのは知っているだろう。君らが今持っている武器も所有は禁止だ。近く、取り締まりが始まるから、それまでにそこの詰所まで武器を持って来たまえ」。
それを聞いて、一斉に賞金稼ぎ達が騒ぎ出した。
先ほどの男が再び声を出した。
「俺たちの食い扶持が無くなる」。
「もう、賞金稼ぎの情報をあの掲示板に掲載することはない。しかし、傭兵部隊に入れば以前と同じように武器の所持は許される。盗賊の征伐の仕事もあるだろう。しかし、傭兵部隊とはいえ軍隊だ、他の任務もあるから、それにも従ってもらうがね。給料はそれなりにいいぞ」。
「俺は誰かの下で命令されたくないから、賞金稼ぎをやっているんだ。他の皆もそうだ」。
他の者も「そうだ」と次々に相槌を打つ。
「これは決定だ。傭兵部隊に入るか、武器を置いて去るか、三日以内に決めてくれ」。
ルツコイはそう言うと酒場を出て行った。他の兵士も私もそれに続く。
私が酒場を出ようとした時、先ほどの男が声を掛けてきた。
「おい、あんた」。
私は振り返った。
「制服を見るとあんたは共和国軍の者だな」。
「共和国軍の者“だった”」
「帝国に協力しているのか?」
「そうだね。私は傭兵部隊に参加することになった」。
「裏切者か。国への忠誠はどうした」。
「君のような者に、国への忠誠について講釈されるとはね。君らは、帝国との戦いの時はどこにいた?」
私はそう言い捨てると酒場を後にした。
私は詰所に戻り、傭兵部隊の募集の張り紙を作成し、表の掲示板に掲載した。
先ほど、ルツコイは“三日で決めろ”と酒場で言ったので、締め切りを三日後にした。
しばらくすると、賞金稼ぎらしき者が掲示板の前に集まってきた。
早速、扉を開けて応募してくるものが多数。
血に飢えている連中だから、盗賊退治などできると言うなら応募するものがそれなりに居るとは予測していたが、幸先良いスタートだ。
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