捜査13日目~新聞社

 マイヤーとタウゼントシュタインは弁護士を事務所に送ったあと、新聞社に向かうことにした。事前知識としてタウゼントシュタインにもマルティンが政府内の汚職を調べていることについて話しておくことにする。できれば直接マルティンが話してくれれば良いが、新聞社にいるのは期待薄だ。しかし。新聞社をタウゼントシュタインに見せておきたいと思った。後はマルティンにクリスティアーネが殺害されたことを伝えておきたい。


「マルティン・ヴェールテはヴェールテ家の三男だ。彼は家族とは距離を置いていて、家族が政府に賄賂を贈って影響力を行使していることを自分で取材して知ったらしい。先ほど話した通り、マルティンは遺産には興味がないと言っていた」。

「その賄賂を贈っていることについて、どれぐらいわかっているのでしょうか?」

「内務局の長官には賄賂が行っていたのは間違いないだろう。警察に捜査を中止させたからね。マルティンによると後は帝国軍の一部にも賄賂が行っているらしい。ヴェールテ家はモルデンから脱出する際にも金を使って帝国軍を買収して脱出したという」。

「ということは、戦争中からヴェールテ家は帝国とつながりがあったということですね」。

「まあ、そういうことだ。モルデンのあの激しい戦闘の中、敵国と通じていたわけだからね、クラクスが恨むのむ無理はない」。

「内務局の長官はいったいどこにいったんでしょう?」

「彼も口封じで殺害された可能性があるだろう」。

「警察が捜査しているが、今朝はオットーの件で驚いてしまって、長官の件は話をするのをすっかり忘れていた。明日、改めて警察へ行って長官の件を確認しに行こう。君のことも紹介しておきたいし」。


 マイヤーとタウゼントシュタインは話をしているうちに、新聞社に到着した。

 馬を社屋に近くの柱に括り付け、新聞社の扉を開けた。

 二人は社屋の中に入り、マイヤーは近くにいる人に声をかけた。

「こんにちは。マルティンさんは、おられますか?」。

「今日も取材で外出中です」。

「では、ディンガーさんは?」

「おりますよ」。

 対応してくれた男性は、部屋の奥に行きディンガーに声をかけた。


 ディンガーは明るい声であいさつした。

「こんにちは。マルティンは遅い時間になると思います」。

「こちらは?」

 タウゼントシュタインを見ていった。

「傭兵部隊の隊員でソフィア・タウゼントシュタインと言います」。

 タウゼントシュタインは敬礼した。マイヤーも敬礼をする。

 

 マイヤーは事情を話し始めた。

「実はクラクスがヴェールテ家のきょうだいの殺害に関与していると疑われてしまい。捜査から外れました」。

「えっ、それはどうしてですか?」

 ディンガーは驚いて見せた。

「彼はモルデンの出身でしたが、帝国との戦争のときヴェールテ家が帝国と内通した上に彼らを差し置いて街を脱出したことに恨みを抱き、それを理由に殺害に及んだとヴェールテ家の執事から話があったそうです」。

「執事が?」

「そうです、警察が別件でヴェールテ家の屋敷に寄った時に話題になったようです」。

「なぜ執事がそんな話をしたのでしょうか?」

「クリスティアーネが飲んだワインには毒が仕込まれていたのですが、屋敷でクラクスがそのワインに触れる機会があったと。また、彼には副市長であったエストゥスの殺害の機会もあったのは間違いないと思っているようです」。

「それで彼は?」

「クラクス本人はもちろん否定しています。私達も彼が関与しているとは思っていません」。

「オットーが私怨で殺人だなんて、私も考えられません」。

 タウゼントシュタインも口を挟んだ。


 マイヤーは話を続ける。

「しかし、ルツコイ司令官の命令で彼を外すことになりました。容疑がかかったまま捜査にかかわるのは確かによくない。その代わりに、こちらのタウゼントシュタインが捜査を引き継ぎます。それで、彼女の提案でもう一度、スザンネを洗いなおそうということになり、ヴェールテ家の屋敷に行ってみたのですが、だれもおりませんでした」。

「誰も?」

「はい、マルティンさんなら事情を知っているかもしれないと思い。その件も伺いたいと思っておりました」。

「なるほど。マルティンは今日は日没ぐらいに戻ってくる予定ですので、あと数時間に待つことになりますが、もしお待ちになるのであれば、奥の応接室を使ってください」。

「会社のお偉いさんはいらっしゃらないのですか?」

「この会社は特にえらい人物がオーナーというわけではありません、私やマルティンのような有志が十数名で共同運営しております。なので、お気になさらずに」。

 そういうと、マイヤーとタウゼントシュタインを奥の応接室に通した。二人は来客用のソファに座る。

 応接室にはこの新聞社で発行している新聞のバックナンバーが置かれてあった。

 タウゼントシュタインはそれを興味深く読む。


“ダーガリンダ王国での魔石の産出は今年も順調。新鉱脈も続々”

“ズーデハーフェンシュタットで、新たな輸入品が続々荷揚げ。”

“アレナ王国で、大陸ダクシニーからの入国者が増加傾向。”

“モルデン周辺の穀倉地帯、今年はやや不作の予想。”


 なるほど、経済の記事が多い。


 ディンガーが紅茶を運んできて机においてくれた。彼とは二、三言話した。彼によると、記者達は現在も政治や社会問題について関心があり、今回の汚職についてもマルティンを中心に数名で調べているということだ。ただ、それは検閲のせいで記事にはできない可能性はあるという。


 マイヤーとタウゼントシュタインは応接室で長時間待たされた。日も暮れ空はだいぶ暗くなってきていた。

 ようやくマルティンが戻ってきた。

「こんにちは。大変お待たせしたようで、申し訳ありません」。マルティンは応接室に入ると、マイヤーとタウゼントシュタインの机を挟んだ反対側のソファに座る。

「こちらは?」

 マルティンはタウゼントシュタインに目を向けて尋ねた。

「傭兵部隊のソフィア・タウゼントシュタインです。先日のオットー・クラクスに代わって捜査をしております」。

「そうですか。よろしくお願いします」。マルティンは頭を軽く下げ、続けて尋ねた。「今日の御用は?」

「実は、屋敷に誰もいなくなっておりまして。マルティンさんなら事情を知っているのでは思い、やって来ました」。

「屋敷にとはうちの? 誰も居ないですって?」

 マルティンは少々驚いて目を見開いた。

「そうです。心当たりは?」。

「いえ、まったく。お互い干渉しませんので」。

「よろしければ、一緒に屋敷に行きませんか?中の様子を拝見したいと思います」。

「いいでしょう」。

 三人は立ち上がって、応接室を後にした。

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